第24話 王宮

第24話 王宮


 間近に見る王宮は美しかった。構造としては防衛用のものではない。王都の街並みを見たときにもそう思ったが、この国は平和で豊かなのだろう。この国だけしか知らないので何とも言えないが、とても150年も魔族と戦ってきたようには見えない。以前オリアナ先生が言っていた通り、別に戦争状態であるわけではないのだろう。


 クリスと一緒に来たため、中に入るのに手間は全くかからなかった。護衛の騎士と門番との間で目くばせが交わされ、クリスに対して最敬礼を行うのを横目に王宮へと入る。俺答礼とかしなくてよかったのかね……。まぁ俺にされたわけではないんだからいいのか?


 城の中は召喚されてきたときの教会内部よりはシンプルだったが、それでもあちこちに緻密で華麗な装飾が施されている。個人的に観光に来たのなら、じっくり回ってみたいところだ。その機会が訪れるかはかなり疑問だが。


「玉座の間に向かうわよ」


 玄関口、と言っていいのかよくわからないが、入ってすぐのホールはかなりの空間があって、壁沿いに二つの大きな階段が設置されている。クリスが左側の階段を上り始めるのでついていくが、階段上部の装飾もかなり美しい。田舎者丸出しの雰囲気でキョロキョロしていると、アンナさんから小声で注意された。


「マモルさん、見られていますから、できるだけまっすぐ前を見て歩いてくださいね」


 直接見られているような雰囲気は感じないが、そこかしこにいる貴族やその関係者から、異世界人としてそれなりに注目されているらしい。慌てて視線を固定する。舐められたらクリスやアンナさんに申し訳ないからな。


「やぁクリス、アンナ、おはよう。少年も元気かね! ついにこの日が来たね!」


 階段を上がるとオリアナ先生が待ち受けていた。最初に見たでっかいオリアナ先生だ。なんでこの人こんなにテンション高いんだよ……。


「おはようございます、オリアナ先生」


 クリスが挨拶を返す。俺とアンナさんもオリアナ先生に頭を下げた。そのまま奥へと進みながら話を続ける。


「勇者クンと聖女殿はもう玉座の間で一席ぶっているよ。今すぐに少年を追放するように要求している。まさか来て早々強硬に主張してくるとはちょっと驚いたよ」


 マジかー。俺たちの方が遅れてるのって、事前に打ち合わせとかできない分かなり不利なんじゃないか?


「その要求、あいつと聖女、どっちが主に主張してるんです?」


「聖女殿だ、勇者クンは緊張してるのか知らないがほとんど全くしゃべらないな」


「聖女の権力ってのはかなりのものだってのは聞きましたけど、それは例えば他国の国王にまで強く出られるほどのものなんですか?」


「まさか。彼女たちにできることは同じ神の信徒として協力を要請することぐらいだよ。強要することはできない」


 肩をすくめながら他愛なさそうにオリアナ先生は答えるが、唯一神で、しかも実在している神の信徒、その代理人からの協力要請、ってかなり重そうだ。


「俺はわけですけど、彼女の協力要請に応じる必要があるんですか?」


「前例がないから何とも言えん。勇者は神から加護を授かる関係上神の信徒として扱うが、少年の場合はその前提すらないからな」


 だろうな。だとするなら俺の振舞い方ひとつで立ち位置だいぶ変わってきそうだなぁ。やっぱり先に突っかかってきてもらえるように立ち回りたいな。


「陛下は少年のことをこの国の客人として扱うつもりでいる。少なくともそういう立場で対応されているはずだ」


 そうなのか、それはいい知らせだな。


「意外でした。てっきり厄介ごとの種として疎まれているのかと」


「そういう認識なら大事な娘を連日向かわせたりするものか。少年の腕にしたって、もちろんクリスの希望もあってのことではあるし、この国ではクリスにしかできないことでもあったが、根本は陛下の誠意だよ」


 ふふん、と得意げにオリアナ先生が笑う。久しぶりに見たなそのドヤ顔。でかいから圧がすごい。


「まぁもちろん、知識という形での対価は要求されるがね。主にわたしから。わたしとクリストで毎日少年の有用性を陛下にささやき続けてやったんだ。感謝してくれてもいいんだぞ?」


「そりゃどうも、ありがとうございます」


 この人恩の売り方下手すぎないか? わかりやすくていいけどな。


「さぁ、事前の情報交換はこんなところかな、キミがどう立ち回るつもりなのか、じっくり見せてもらおう」


 その言葉と同時、足を止めたそこが玉座の間への入り口だった。

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勇者のおまけ 集良 @bittertaste88

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