天国さ行っただ

 寒いはずの外だけど、あたしは胸の中が熱くなってるのを感じてた。

 もう死んでるはずなのに、おかしいよね?

「おかしかねえ、おかしかねえぞ。魂ってもんはよ……」

 店長、あたしのこと、いっぱい、奥さんに話してくれてたんだなって。

 あたしはそれだけで、胸がいっぱいで、熱く……いや、あったかくなって。

 だから、もう、十分かなって……。

「あのよ、」

 あの世、ね。

 天国、ね。

 うん、わかった、もう大丈夫だよ……。

「あのよ、言っとくけどよ、」

「んもう! 何! 何なの! 邪魔しないでよ!」

「聞けって!」

「何よ!」

「あの女の人はよ! 店長のお姉さんだよ!」

「ええええ?!」

「奥さんじゃねえんだよ! オラぁそういうのも見れっからよ! 知ってんだ!」

「は、早く言ってよ……。」


 ……とか言って、こいつが早く言ってたとこで、あたしが死んでることは変わんないから、結局どうにもなんないんだけどね。

 でも、どっちにしても、店長があたしのこと好きでいてくれてたことには変わんないよね?

「ちょっと拡大解釈してねえか?」

 だから……だから、そうだね、今、あたしの中にあるこの暖かい気持ち、それが何なのかが、わかった。


 ありがとう。


 みんな、ありがとう。

 お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ありがとう。

 あと、親戚の人たちもね。ありがとう。

 チーコ、ユカ、他にもいっぱい、あたしと友達でいてくれたみんな、今まで出会った人たち、学校の先生たちも、塾の先生も、みんな、それに、お店のスタッフの人たちも、みんな、みんな、ありがとう。



 そして、店長もね。

 あ、そしたらお姉さんも。


 ……ありがとう。


 十何年しか生きなかったけど、楽しかったよ。



 そう思ったら、当たり前だけど、すごい泣けてきた。

 でも、やっぱり幽霊だから、涙は出てこなかった。

 けど、泣いた時みたいに、目の辺りと鼻の奥がギューってなった。

 ちょっと、困った。


「まりえ、おめえ……いいのか?」

「何が?」

「なんかもうすっかり、天国さ行く気なってるみてえだけど……?」

「うん。だから?」

「店長と話さなくていいのか? って。」

「あ……そうだった……うん……うん、でもいい! もういいよ! 大丈夫!」

「本当か?」

「くどいよ! だって、もうあたし死んでるのに、そんなしゃしゃってどうすんの! って! いまさらね! ほら、死人に口無しっていうでしょ!」

「おう……ちょっと意味違うけどな……?」


 と、ちょうどそこまで話してたとこでいきなり、空から白い階段が伸びて、あたしのとこまで降りてきた。


「うわ、これってアレ? 天国への階段とかいうやつ?!」

「おお……神様もオッケーって言ってるわ、これ。うん、よかったなあ、まりえ!」

「初めて見た! うわあー、長いねえ……。」

「そりゃ初めてだろうよ!」

「よーっし!」


 あたしは意を決して、すたすたと、階段を昇り始めた。

 ヨッパライ天使を後ろに引き連れて。


「ねー、天国ってどんなとこなのー?!」

「いいとこだぞ! 酒はうまいしねえちゃんはキレイだ!」

「ちょっとー! あたし未成年だし女の子なんだけど!」

「オラぁそんだけありゃ十分だ!」

「そんなの知らないしー!」



 あたしはこうして、天国に行っただ。


 帰って来ることは、無いよね。




 さよなら、店長。


 あたしも大好きだよ。




                                 ~おしまい






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帰って来ないしヨッパライじゃないし 黒猫 @chot_soyer

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