立ち聞きはよくない

「店長、奥さんいたんだね……。」

「…………。」

「そっかー!」

「今のは、感情こもってたな。」

「そりゃねー……。うん、あたし、なんか勘違いしちゃってたんだなー、って……はーあ……。」

「…………。」

「……なんか言ってよ。」

「中さ入るぞ。」

「え?」

「中さ入るぞって言ってんだ。」

「い、いいよ、もう! ......もう、終わったんだから!」

「いいから!」

「いいの! もう! あたしの未練は、もうおしまい! おしまいなの!」

「よくねえっつってんだ!」

 ヨッパライ天使は、空中に浮かんでるってのに、すごい力であたしを家の中に引っ張ってった。



 中では、奥さんが店長の夕飯を台所であっためてて、店長はテーブルに座ってた。


――まりえちゃんって、あのまりえちゃんだよね……?

――うん……。


 あたしの話してる。


――裕武が、よく電話して起こしてた子……。

――うん……。


 店長、ひろむって名前だったんだ。

「知らなかったんか!」


――何でもマヨネーズかけちゃうのも、その子だよね?

――そう……そうそう、ウチ和食だってのにさ、本当、何でも……ははっ……。


 店長が、やっと、ちょっとだけ笑った。


――裕武、よくその子のこと話してたからね、私も覚えちゃってるよ……いい子だったんだね?

――ん……。


「あ、ダメだ、ごめんヨッパライ。」

「お、おい!?」

 あたしはなんだか、もうそれ以上見てられなくなって、外に飛び出した。






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