絶対にバレないストーカー
店長はそのまままっすぐ駅に行って、ちょうど電車が来るとこだったから、あたしもそれに乗った。
バイトはみんなだいたい近所に住んでるから自転車とかなんだけど、社員の人たちは電車で来てるんだよね。
店長はいつもこうやって通ってるんだなあ、なんて、知ってたけど、実際一緒に乗るのは、今日が初めてだし。
「一緒に、つったって、向こうはこっち見えてねえべよ?」
「んもう! 知ってるし!」
なんだか放心してる感じの店長を、あたしはちょっと遠くから見てた。
あれは今たぶん、あたしの事を考えてるんだよね……。
「ストーカーか?」
「うっさいな! 今日だけ……今だけなんだから! いいでしょ!」
電車はそのうち、店長の降りる駅に着いた。
店長について、あたしとヨッパライ天使もそそくさと電車を降りる。
「へえー、店長、ここの駅なんだ。」
「無賃乗車だぞ。」
「んもう! いまさらそういうツッコミいる?」
家へ向かう店長の歩き方は、やっぱり元気が無かった。
いつも歩いてる道なのにね。
この道を毎日歩いて、店長は、うちの店に通ってるんだ。
こんなに遠かったんだね。
あたしのほうが全然家近いのに、あたし、いっつもバイト遅刻してたっけ。
店長が見かねてあたしにモーニングコールするようになって、始めウザいなって思ったけど、寝起き不機嫌なあたしに、店長は何か一言、話になるネタを用意してて……ううん、用意するようになって。
それでそのうち、てかすぐに、あたしのねぼすけは直ったんだけど……直ったのに……
直ったのに、今度はあたし、永遠のねぼすけになっちゃった。
もう、目覚めない。
「うまいこと言う。」
「あーもう黙って! 何笑ってんの! 笑うとこじゃないよね?! 心の中読まないでよ!」
「幽体になっとよ、全部筒抜けなんだわ。」
「えーそれって不便じゃないの?」
「逆じゃねえか? 便利って言わねえか?」
「そうなの? そういうもんなの?」
「うぃ、ヒック!」
あたしがヨッパライ天使とそうしてるうちに、店長の家に着いたみたい。
二階建てアパートの、二階だった。
「……ただいま。」
店長が鍵を回して開けたドアの中は、明るかった。
「おかえりー。遅かったね。なんかあった? ご飯食べるでしょ?」
え、嘘。
奥さん?
店長、奥さんいたの?
「うん……後で話すけど……あ、そうだ……ちょっとさ、塩持ってきて、撒いてくれる?」
「え、塩?」
え、塩?
「お清めなんだけどさ……。」
「わかった。」
え、ちょっとまって、あたし、祓われちゃう? 祓われちゃうの?
「落ち着けって。陰の気を祓う塩だ、おめえをお祓いするってんじゃねえって。」
「そうなの? じゃ、あんたを祓う?」
「違うって! オラぁ天使だぞ、陰の気のもんじゃねえよ!」
「そっかー」
「棒読みすんな!」
バタン。
そんなことを言ってる間に、店長は塩でお清めして、家の中に入ってっちゃった。
……あたしは、中に入る気にはなれなかった。
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