藤堂高虎の妻という仕事は、何であろうか。
津藩の編纂史料に正室の働きを示す史料は存在せず、あくまでも婚姻とその一つの死が示されるのみであった。
そのような中で琴太郎先生は、彼女が如何なる人生を歩んできたかという難題に挑む。これはまさに偉業である。
高虎の人生は苦難の連続であるが、主人公・朝子さんは我々と等身大の目線で、感情移入しやすい筆致が見事。
更に時代の描写も素晴らしく、風俗に疎い私は読むたびに学びを得る程だ。
そして時代を知る私は、
「このあと朝子さんどうなっちゃうの~」
とドキドキが止まらないのである。
彼女が眠る四天王寺には、二対の肖像画が伝わる。一つは威風堂々たる藩祖高虎の肖像画、そしてもう一つは柔らかな正室の肖像画がである。
夫妻は今でも肖像画を通して、向き合い続けている。
OLさんが戦国時代にタイムスリップ、そんな奇天烈な設定から始まるお話ですが、そのOLさんは歴史改変なんてだいそれた事は考えませんし、異世界に投げ込まれて人格崩壊しちゃうようなやわじゃありません。
しかし、彼女は戦国の歴史を戦国の女としてたくましく生きていきます。その現代人の視点から見る戦国時代の人々の様子は、まさしくその現場に我々が存在したときに感じたであろう思いを代弁します。つまりこの作品は現代人をして戦国を眺めたときに思う自らの思いを感じさせる作品です。戦国を彼女を通して身近に投影し感じさせてくれます。そこが今までのタイムスリップ小説とは一線を画します。
これは戦国の中に飛び込んで戦国を見るという、歴史の記録を読むだけの従来の歴史小説とは一線を画す意欲的かつ実験的な作品です。
この実験はほぼ成功しています。読者はその主人公の環状を我が物に感じて、ついつい読み進めてしまいます。それはただ過去の記録を読んでいるからではなく、過去の世界を彼女を通して過去の社会を感じさせてくれるからです。
非常に意欲的な作品、まだ、完結にはなっていないと思いますが、今後の展開も非常に楽しみにしています。