6.考察


7歳になった俺はまた長老の部屋を訪れていた。

これもまた長老は毎回興味深い話をしてくれるためだ。


「世界には様々な種族がいる。そしてそれぞれの種族には特徴があるのは分かっておるよな?」


「うん。」


長老の言葉に頷く俺。例えばエルフだと魔力が強いために魔法の攻撃力と魔力に対する耐性が高い。だがその分筋力とかは付きにくいこともあって物理的な攻撃力は低く、防御力も低めだ。ちなみに俺の父親はエルフの癖に力も強いので剣をぶんぶん振り回している。ふざけてやがる。


ちなみにレイの狐人族と言えばかなりの攻撃特化の種族のようだった。魔力もかなり強いので魔法攻撃力も高い、ついでに言えば物理的な火力もかなり高いようだ。少なくとも現段階でも俺よりは力が強い。ここまで聞けば強そうだがあまり持久力が高くなく、短期決戦向きだそうだ。将来的にレイとパーティを組むならかなり防御がぺらっぺらのパーティになりそうだ。


とまぁ、こんな感じに各種族には特徴がある。


「わしはな、全部の種族が平等だと思っているんじゃ。」


「え?」


長老から出てきた言葉に俺は驚かずにはいられなかった。そんなことを俺は考えたこともなかったからだ。そこからは、より真剣に長老の話に耳を傾ける。


「例えば人間じゃ。奴らは良くも悪くも平均的な能力をしておる。」


「でもそれだけじゃ普通にエルフの方が強くない?」


エルフの筋力が人間に劣ると言ってもそこまで変わらない。里のエルフたちを見て比較すると少なくとも前の世界の人間と大して変わらなかったからだ。逆に魔力は人間よりもかなり多いそうだ。お父さんたちは昔旅をしていたそうでそこで何人もの人間と出会ったことがあるらしい。そうして考えてみればエルフの方が人間よりもはるかに優れていると思う。


早い話が遠距離からエルフお得意の魔法連打で勝てるような気がする。たとえできなくても魔法を用いての身体強化という方法もある。それを使えばエルフでも十分に近距離戦闘はこなせる。あくまでも弓が得意というだけだ。残念ながら俺には近接戦闘は無理のようだったが。


「そうなんじゃが…。」


何とも歯切れの悪そうな長老だ。うーん、わかんないぞ。


「うーむ、まだフェイにはわからんか。答えは数じゃよ。」


「数?」


「そうじゃ人間は一人一人の力がそこまで強くない。だがその分やつらは数が多い。中には英雄とも呼ばれるとびぬけた存在もいる。だがその寿命もわしらと比べて短い。」


「確かに…。」


このエルフの里を見てもわかるがエルフの数はそこまで多くない。逆に人間は何倍も何十倍もの数がいるのだろう。この世界の人々の命の軽さは身に染みて教え込まれている。流石に現代日本の人口とか比べたら分が悪いがそれでも数が多いのは容易に想像できる。流石にそこまで圧倒的な人数差があるようなら弱いとは言えないだろう。数も立派な戦術の一つだと聞くし。


そんな人間にも弱点がある。それが寿命だ。亜人の多くは人間よりも長い寿命を持つので早い話が英雄などがいようが死ぬまで待てばいいということだ。だが人間は、寿命が短い分自分たちの技術を次の世代へと引き継いでいく。この世界の歴史からも前世の歴史からもそういった点では同じようだ。


「じゃあもしかして魔物も?」


「あぁ、そうだ。奴らはもっと数が多い。特に弱い魔物何かそこら中にいくらでもいる。ゴブリンなんかがいい例じゃ。だがSランクの魔物の数は少ないじゃろ?どの種族も均等の力を持っているということじゃよ。まぁ、魔物は世界の敵と言ってもいい存在じゃから亜人に人間を加えたすべての人族と対等といった関係なんじゃろうな。」


これだから長老の話は面白い。俺だけならそんなことを考えもしなかっただろう。すべてがあっているとは限らないがかなり正しい仮定だと俺も思う。まぁ、そもそもこんなことを考える子供がいてたまるかってところだが。


このバランスは意図して作られたものなのだと思う。ならこのバランスが崩れたどうなるのだろうか?俺は急激に背筋がぞっと固まったような気がした。これ以上踏み込んではならない。そんな気がした。


「どうじゃった?年寄りの話は面白かったかのう。」


「うん、ありがと。アイズおじいちゃんまたお話聞かせてねー。」


元気な子供を演じて長老にあいさつをして家へと帰る。長老の話が俺のためになることが多いのは事実だ。俺や両親でさえ知りえないことをたくさん知っている。だが時には知りすぎた結果痛い目を見ることもある。その経験が俺には前世にあった。だから今日の話はそっと胸にしまっておくとしよう。


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