2.気が付いたら転生してた


あれ?


最初に感じたのは、疑問だった。

確か俺は、瑠璃を助けようとして車に跳ね飛ばされて死んだはずだった。


それがどういうことだろうか?目を開くことは難しいがどうやら何か温かい布で包まれている気がする。


とりあえず声をあげてみようか。


「おぎゃあああああ。」


え?


何故かしゃべれない。いやしゃべれるんだけど舌が回らない。

これはまさしく――。


「まぁ、あなたやっと声を出してくれたわよ。」


誰だろうか?いやなんとなくわかる俺の母親なんだろう。きっと今の俺は赤ん坊に違いないのだから。


「おぉ、フィーア。俺たちの子供だぞ。」


さっきの女性とは違った優し気な男性の声がする。しかも抱きかかえられているような気がする。たぶん父親だろう。赤ん坊の力じゃ何もできないのでおとなしく抱きかかえられておいた。


頑張って目を開けるまだなんだが視界がぼんやりしているが徐々にはっきりしてくる。


(やだー超絶イケメンなんですけどー。)


父親らしき人の顔は、人間とは思えないほど整っている。これが黄金比というものなのだろうか。しかも耳を見れば少しとがっていた。いわゆるエルフというものなのかもしれない。


「フィーア、目を開けてくれたぞ!」


「あなたよくやったわ。もう可愛すぎるわ。」


母親らしき人も相当な美人だった。それに子供産んだというのにもかかわらず見た目は10代後半と言っても通じるくらいには、若い。やはりエルフというものの寿命は人間よりも長いのかもしれない。


(やべっ。)


何だが急に眠気がやってきた。やっぱり生まれたばかりの赤ん坊のせいか寝ないといけないのだろう。


「ゆっくり休んでね、フェイ。」


そうして俺は意識を手放した。


◇◇◇


俺が生まれること3か月ほんのちょっぴりだけこの世界について分かったことがある。


まず、俺の父親と母親の名前だが…父がアレンで母がフィーアだった。

名字はないみたいだ。たぶん、貴族とかいるやつだろう。


そして俺が生まれたのはエルフの里だった。現代日本とは大きく違って自然に満ち溢れていた。里の中心には、神樹と言われる巨大な樹がそびえている。その樹の姿はとても幻想的なもので改めて自分が異世界に来たということを深く実感した。もっとも自分じゃ歩けないので親に抱えられて連れていかれた際に見ただけなのだが。


そして今の俺には、一つ悩みがある。普通の人なら感じることのない悩みだ。それは――。


「はーい。フェイちゃん、おっぱいの時間ですよー。」


「あぅ。」


上半身の服をはだけさせ、腕の中に抱えられた俺に向けてやわらかそうな双丘を差し出してくる。いや実際に柔らかいんだが…。精神年齢10代後半の俺には、めちゃくちゃ恥ずかしい。誰が好き好んで母乳に吸い付かなきゃならんのだ。


思春期の男子高校生諸君なら大興奮して吸い付いていたのかもしれないが今の俺は、0歳3か月だし肉体に精神が引っ張られているのか興奮など1ミリもしない。


でもまぁ、おいしんだよなぁ。これが(泣)。あっやべ、ねむ……。


◇◇◇


さて母乳を飲んで速攻でおねんねしてしまった。その翌日、試そうと思った出来事があるのだ。


そう魔法だ。今までの生活の中で両親が魔法を使うところを何度か見せてもらったことがある。


(多分、魔力があるはずだよな。)


魔法があるからには、魔力があるはずだと勝手に仮定し体内にそれっぽいものがないか探す。


(んー?これか?)


胸に手を当てたり、もちもち肌を楽しむこと5分ようやくそれっぽいものを見つけた。


心臓の近くにあり、血液とは違う何か。おそらくこれが魔力だろう。意識してみれば血液のように全身を駆け巡っているのが分かる。


とここでとあることに気が付いた。


(俺魔法の使い方知らなくね?)


魔法があることが分かり、魔力らしきものを発見した俺だが肝心の魔法の使い方が分からなかった。


(とりあえず風でも吹け。)


心の中でそう思っていると体から急に力が抜けて――。


「うぎゃ!?」


俺を中心に風が発生した。ただその風の威力はかなり強く俺の寝転がっていたベットが破壊されてしまった。そのせいで俺も落下してしまった。ちょっと痛い。


まぁ、そんなことすれば家にいる人は気づくわけで…。


「何事!?」


お母さんのフィーアがやってきた。手にはお玉を持っていた。料理中だったのだろう。


「これは魔力の残滓?でもいったい誰がこんな強力な魔法を…。」


と言いかけたところで目線がこっちへ飛んできた。とりあえず知らんぷりしておく。


「すごいわ。フェイちゃん天才よ。後でパパにも言わなきゃね。」


「うぃー。」


ただの親ばかだった。でも魔法に関してはしばらくはやめておこう。毎回こんなことになったら大変だ。

初めての魔法は大失敗に終わってしまった。



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