5.訓練
とうとう5歳の時がやってきた。ようやく剣術の練習ができるようになった。
この世界では命の価値が非常に軽い。世界中に魔物は存在するし、もしそんなものに子供がうっかり出会ったとしたらすぐにでも死んでしまうだろう。それが例え最弱と言われるゴブリンやスライムであったとしてもだ。
だからこそ子供でもある程度戦えるようになっていかないといけない。幸いエルフは、魔法のエキスパートともいえる種族でだれでも鍛えればゴブリンやスライム程度は倒せる。
でも小さすぎるころからやると体も完成してないなどで悪影響しかない。というわけである程度からが出来上がる5歳から訓練を始めるということなのだ。
「これが訓練用の木剣だ。持ってみろ。」
父さんの手には、2振りの木剣があった。そのうちの一つを俺が持つ。もう一つはレイのだ。
(思ったよりも重い。)
子供の体なのか木剣がすごく重く感じる。このままだと満足に振れそうもない。ちらりとレイの方を見ると例も重そうにしていた。
「とりあえず素振りしてみろ。」
言われたままに木剣を振る。1回、2回…10回とすぐに振り終えた。だが体の方の疲労はすさまじい。特に後半の方などほとんど剣に振り回されていると言っても過言ではなかった。
「うん、フェイ。お前に剣の才能はない、いますぐやめろ。」
「え?」
ショックだった。将来的に魔法剣士にでもなろうかと思っていただけに一瞬でその未来を破壊されたのだから…。
「そんな残念そうな顔をするな。普通エルフが剣を使うほうが珍しいんだぜ?それにエルフと言えば弓だ。まだ問題ないさ。」
俺が魔法剣士を目指したのにも大きな理由がある。と言っても父親の存在だ。父さんは、弓がメインのエルフたちの中では珍しく剣がメインなのだ。いつか父のように思っていただけに少し残念だ。
だがこの世界は弱肉強食。前の世界など比でもないぐらい力が重要視されるのだ。何か一つでも突き抜けたものを持つほうがいいに決まっている。父さんは俺のことを考えて発言してくれている。その言葉が違ったことは今までにない。前世のくそ親とはてんで違う。だからこそここは父さんの言うとおりにすべきだろう。
「レイは、こっちのほうがいいだろう。最低限、振り回されないようにしなさい。」
「うん。」
そういってレイに渡されたのは木でできたショートソードだった。レイは、俺が魔法剣士を目指していることを知っている。それだけに俺のほうを向いてどや顔をしてくる。非常に腹が立つが何も言い返せねぇ。
「どや顔のところ悪いがレイのメインはあくまでも魔法だ。剣は最低限身を守る程度しか教えないぞ?」
急にレイがしょぼくれた。表情の落差に思わず笑いそうになる。
「いいもん。フェイよりは私の方が剣が向いてるってことだし。」
「うぐっ。」
それを言われるといたい。こうなったら弓をマスターした後に剣でぎゃふんと言わせてやる。いつか必ず…。
「とりあえず次は弓だ。こっちにこい。」
父さんに案内されてやってきたのは、射撃場みたいなところだった。すこしずつ距離が違う的がいくつも並べられている。ここで最初は弓の練習をするのだろう。
「いいか?弓で大事なのは手元をブレさせないことだ。手元がぶれてしまえば必ず狙いがずれてしまう。それも遠くなれば遠くなるほどそのずれは大きくなる。」
父さんが弓について語りだした。こう見えても父さんは弓も扱える。正直多芸すぎてうらやましいがないものねだりしてもしょうがないだろう。
「まぁ、口でも言ってもわからんだろう。実際にやって確かめてみろ。」
俺たちには子供用の非常に小さな弓が渡された。これなら力のない俺でもちゃんと最後まで弦を引っ張ることができるだろう。
「こんな感じに弓を引いて的に当ててくれ。」
父さんはこっちを見つつ話しながらも弓の弦を引いていた。的の方を一切見ていないにもかかわらず屋は正確に的の中心を射抜いていた。しかも的との距離は100メートルくらい離れているにもかかわらずだ。これはすごい。
「お前たちはとりあえず一番近い的からやってみろ。」
「「はーい。」」
冷静に的の中心を見据え、手元がブレないようにゆっくりと弦を引き、矢を放つ。
「お。」
父さんも思わず感嘆の声を漏らしていた。俺の放った矢は見事的の中心を射抜くことができた。もちろん前世では、弓道をやったことなどない。それにも関わらずいきなり中心を射抜くことができた。これもエルフになったおかげだろうか。
「ぐぬぬぬ。」
逆にレイは悔しそうだった。矢を撃つまではできているが矢が当たった場所は魔とよりも全然下だった。
「すごいぞ、フェイ。お前は天才だ。」
「わっ。」
いきなりお父さんが抱き着いてきた。ついでに言えば頭をなでなでされている。なんだか照れくさい。
「ずるい、お父さん。私も!」
「いいぞいいぞ。」
レイも駆け寄ってきた。レイって意外とお父さんっ子なんだよなぁ。
「フェイ。最初からあんなにうまく弓が使える奴なんていないんだ。お前には弓の才能がある。乙さんがしっかりと鍛えてやるからな。」
「うん。」
「おい。泣いているのか?」
「大丈夫。ちょっとうれしかっただけ。」
父親の言葉が暖かかった。俺には、今までない経験だったもあり思わず涙を流した。
何とか父さんをごまかせたようなので良かった。
「そうか…。レイも大丈夫だ。最初はアレぐらいが普通だ。それにレイには、剣だってあるだろう?何も悔しがることはないさ。」
「・・・うん。」
「さて慣れない弓と剣に疲れただろう。今日は休もう。お母さんには、エリン鶏のハーブ焼きを作ってもらおう。」
「「やったー。」」
エリン鶏は、俺たちが住んでるエルフの里の付近で現れる鶏の魔物で俺とレイの大好物なのだ。
前世では、親から褒められることがなかった。でも今日褒められた時俺は胸に何かこみあげてくるものを感じた。前世では家族なんていらないと思っていた。でも今は違う、俺はこの家族が大好きだ。
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