猫に小判。豚に真珠。
酸化する人
第1話猫に小判。豚に真珠。
カランカランカラン~♪♪
「おめでとうございま~す!一等のふわるんふわるん帝国(遊園地)“ペア”入場チケットが当たりましたぁ~。」
高らかに店員の声が響く。
スーパーマーケットの福引きで、一番良い商品らしきものが当たったらしい。
40年間、運というモノに見放され続けてきたオレにとって、その出来事は晴天の霹靂といっても過言ではない。
もう一生こんな幸運には巡り会えないだろう。
普通なら感涙にむせび、神様とやらに感謝し、この喜びを他の人たちと分かち合うようなことをしてもおかしくはない。
だが…。
「恋人と一緒に楽しんで来てくださ~い!」
ご生憎、オレには“ペア”になってくれるような恋人はおろか、友人すらもいない。
つまり、猫に小判。豚に真珠。
どんなに価値あるものでも、所有者によっては無価値になり下がるという良い例だ。
「…楽しんできます。」
もはや、上辺だけしかないようなセリフを店員さんに吐いて、その場を後にする。
…さて。この紙切れ。どうしようか…。
捨てる。という選択肢もあるにはある。
確かにこの紙切れは、オレにとって価値なんてないに等しいものだ。
だが、一般的な価値観という馬鹿げたフィルターを通して見てみればどうだろう。
途端にその色を変える。
輝かしい金色へと…。
その輝きが、皮肉にも捨てるという考えを鈍らせる。
「…偶然にも、今日は仕事が休みだ。」
2時間後。
気がつくと、例の遊園地まで足を運んでいた。
受付は…あそこか。
「ようこそ!ふわるんふわるん帝国へ!!」
ふわるんふわるん帝国?
ああ。
確かそんな名前の遊園地だったな…。
「このチケット使えますか?」
「ペアチケットですね!…えーっと、彼女さんはどこにいらっしゃいますかね?」
「一人で来ました。」
受付の人が一瞬、哀れみを込めた眼差しでオレを見てきた。
だが、さすがはプロと言ったところだろう。
すぐに表情を切り替えて
「一人でもとても楽しめるテーマパークとなっております!では、行ってらっしゃいませ!!」
満面の笑みで、オレを送り出してくれた。
不正入国してから、3時間が経過した。
今は遊園地内のレストランで夕食をとっている。因みにアトラクションは全て回った。全力で、楽しむ努力をしたと思う。これでオレの幸運も無駄にはなっていないだろう…。
「そろそろ帰ろうか…。」
明日からまた仕事だ。
これ以上この場所に居ては差し支える。
席から立ち上がり、会計を無料チケットで済ませて遊園地の出口へと向かう。
「どうでしたか?一人でも遊園地、楽しめましたか?」
声のする方向を向くと、さっきの受付の人が立っていた。
「…ええ。楽しかったです。」
「そうですか!良かったです!…実は言うと一人で遊園地行くの、私も好きなんです!」
この口ぶりから察するに、オレは一人遊園地常連者と思われているようだ。
「また来ますので、その時はよろしくお願いします。」
「は、はい!またのご来場をお待ちしております。」
猫に小判。豚に真珠。
価値観は人それぞれ。
猫に小判。豚に真珠。 酸化する人 @monokuroooo
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