私がこの物語に対し感じたものは、その"鮮やかさ"でした。鮮やかと聞いて違和感を抱く方もいるかもしれません。しかしながら、物語全体を覆う陰鬱とした雰囲気の中にある一時の温かい情景。そのギャップこそが、私が感じた"鮮やかさ"でした。そして、その"鮮やかさ"は"美しさ"への昇華を果たしている様にも取れました。表現についてですが、全体を通して淡々としてはいるが、まとまりは有り、クライマックスであるシーンの行間の使い方に関しては、臨場感が有り非常に読者の心掴むものになっていました。全体として、非常に良い作品であり、結末を知ってからも、もう一度読んでみたいと感じさせる物語でした。
いじめにあい不登校になっていた〈僕〉水野が久しぶりに学校に行くと、その根源になっていた、当時、みんなの人気者だったはずの桐野がいじめにあっていた。
周囲から無視されることに耐えているように見え、思わず、僕から声をかける。
人気者だったはずの桐野は、そのことに驚き、そこから、奇妙なふたりの関係が始まった。
この物語の僕は、不登校を嘆く母親の姿を見て、そこから抜け出す努力をするほどの、優しい性格なのです。
でも、自分の不登校の原因を作った桐野に対して、こころは寛大すぎる気がするのです。簡単に赦せるわけない……と。
たぶん、皆さまだって、そう思うに違いありません。
僕が話しかけたことをきっかけにして、いろいろつきまとい始めた桐野。
こちらも、いじめの原因だったことを忘れてるの? と思うでしょう……。
皆さまは、その疑問を抱えたまま、ラストまで読み終えてください……。謎はなぞのまま、本文はエンディングを迎えますが、そこで考えてください……。
書かれていない物語の中に、何が見えますか……?