イモリは天を仰ぐ

滝川創

旅に出るイモリ

 ふわふわと浮かんでいるその雲は、三角形と言われればそう見えるし、雫型だと言われればそれもまた、そう見えてくるものでした。


 地上の原っぱに寝転んでいたイモリは雲を見て、なんだか涙みたいな雲だな、と思いました。




 イモリはその場に立ち上がると背伸びをしました。それから大きなあくびをすると、家へと道を歩き出しました。

 世界はどんよりとしているように思え、イモリは何だか悲しい憂鬱な気持ちになりました。


「何か楽しいことはないかなあ」


 道端にミミズがいました。


「こんにちは」


 イモリが声をかけてもミミズは返事をせず、その場にうずくまっています。

 イモリは足を止めました。

 ミミズは熱い地面の上でしわしわになっていました。近付いてみると、ミミズは息をしていませんでした。


 俺もいつかはこのミミズみたいに動かなくなってしまうのか……。

 だったら幸せに死にたいなあ。

 でも俺は今、幸せではないからなあ。



 ……ところで幸せって一体何なんだろうか。


 イモリは腕を組んでしばらくの間考え込みました。

 それから閃いたように顔を上げました。


「そうだ、幸せでないならば幸せを探しに行けばいいんだ!」


 この世界のどこかに行けば幸せを見つけられるかもしれない。

 そうと決まったら早速出かけよう。

 イモリは家へ向かって走り出しました。



「お母さん、ただいま!」

「あら、お帰り。丁度ご飯ができたところよ」


 イモリのお母さんは大きな鍋を持って、エプロン姿で彼を出迎えました。

 扉を勢いよく開けて帰ってきたイモリを見て、お母さんは彼の様子がいつもと少し違うことを感じ取りました。


「俺、旅に出るよ! 幸せを探してくる!」


 勢い付いて言うイモリにお母さんは驚きの表情を見せました。

 しかしすぐに優しい笑顔で言いました。


「それは良い経験ね。でもご飯だけでも食べて行きなさい。その間に旅へ持っていくおにぎりを作っておくから」

「うん!」


 イモリは席に着いて用意された温かいご飯を口いっぱいに頬張りました。




 イモリはお母さんが握ってくれたおにぎりをリュックサックに入れて、外に出ました。

 お母さんが家の前まで見送りをしてくれます。


「気をつけてね。お腹が減ったらそのおにぎりを食べるのよ。あと、困っている人がいたら助けてあげなさい。それから、色々なものを見てくるのよ」

「わかったよ!」


 イモリのお母さんは少し不安げな顔で他に言うことがないか、探しています。


「それじゃ、行ってくるよ」


 イモリがそう言って歩き出そうとすると、お母さんはどことなく寂しげな笑顔を浮かべました。


「本当に気をつけるのよ……。帰りたくなったらいつでも帰ってきてね。温かいご飯を用意して待ってるからね」


 お母さんが手を振り、イモリは手を振り返すと歩き出しました。

 太陽は空高くにのぼっていて、イモリの真下に影がついてきます。

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