働くトンボ
イモリが道を歩いていると、一匹のトンボが砂糖の塊を運んでいました。
トンボは地面に空いたひとつの穴に砂糖を入れては少し遠くの場所へと飛び去り、またしばらくしたら帰ってくるという仕事を無言でこなしていました。
イモリは道端にあった木の枝に腰掛け、その様子を見ていました。
トンボの羽はだいぶボロボロになっており、年齢ももう若くはありません。
イモリの視線に気付いたトンボは空中でとまると、その目をこちらへぎょろりと向けました。
「何をしているの?」
イモリが問いかけます。
「仕事だよ。見てわからないか?」
「では、何の仕事をしているの?」
トンボは面倒臭そうな顔をしました。
「アリたちに食べ物を持ってくる仕事だよ」
「なるほど……その仕事は楽しい? 今、君は幸せ?」
トンボは不快感をありありと顔に出して言います。
「幸せなわけがないじゃないか。これは大変な仕事なんだぞ。羽もボロボロになってしまったしな」
イモリは首をかしげながら尋ねます。
「じゃあ、なんで君はその仕事をし続けるの?」
トンボは面食らったような仕草をしました。
「将来のために決まっているじゃないか。働いて手に入れた報酬で、幸せを手にすることができるんだよ。そのために今は嫌なことも我慢してやるのさ」
「うーん、ではその幸せを手にすることができるのっていつだい?」
トンボは固まってしまいました。しばらく考え込んでいましたがため息を着くと「とにかくいつか、十分な報酬が手に入ったらその時には幸せになれるんだ」と応えました。
「それじゃ、俺は急いでるんだ。仕事をしなきゃいけないからね」
トンボはそれだけ言うと、イモリに背を向けて飛んでいきました。
イモリは木の枝から腰を浮かせると、また歩き始めました。
「ここに幸せはなさそうだ」
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