元気なバッタ

 イモリが小山の上に登ると、一面に緑が広がっていました。

 優しい風に乗った甘い草花の匂いがイモリを優しく包み込みます。

 頭上からはぽかぽかと温かい陽差しが降り注ぎ、植物の葉についた露が宝石のようにキラキラと光っていました。

 イモリが大きく伸びをしていると、その上を何かが飛んでいきました。

 その何かが地面に着地してこっちを向き、ようやくそれがバッタだとわかりました。

 バッタは特に目的も無く、跳び回っていました。


「はっはー! 楽しいねぇ!」


 バッタはイモリを目にとめ、近くへと戻ってきました。


「ここら辺では見ない顔だね! きみはどこから来たのさ?」

「俺は遠く、小山の向こうから来たんだ」

「はてさて君は一体、何故こんな何も無いところに来たの?」

「幸せを探しているんだ」


 バッタは一瞬動きを止めて、それからまた目まぐるしく跳びはねました。


「そいつはいい! 幸せ探しの旅か」

「きみは幸せがどこにあるか知っているかい?」


 このバッタだったら幸せを教えてくれそうだ、と直感が言っています。


「幸せ……難しい話だ」


 彼は顎をさすって目をつぶり、少ししてから大きく跳びはねました。


「まあ、言えることはひとつ! 幸せはやってくるものじゃない。探しに行くものだってことだ」

「探しにいくもの……?」

「そうだ。だから言ってしまえば、きみは今、幸せなんだよ」

「俺が幸せ……?」


 バッタは大きく笑いました。


「そうそう。きみは幸せだ。なぜならこの僕とこの小山で出会ったんだからね。素敵な出会いをありがとう! それではまたどこかで会おう!」

「あっ、ちょっと待って……」


 バッタは一方的に喋りきると空高くまで跳んで、遠いところへと行ってしまいました。


「まだ聞きたいことあったんだけどなあ……」


 何だか近付いたような、近付いてないような。

 見つけたような、余計こんがらがったような。


 バッタが放った予想外な言葉に、イモリは頭を抱えながら小山を下っていきました。

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