エピローグ 家老、迷う

久利呉藩くりごはんの事件を聞いた弥七かろうは、マイクを取り落とした。

今まで楽しく歌っていたのに、急転直下の出来事だった。


「お上の待機命令なんて聞いてられるか。藩主さまをお助けに参る。」


お上の命令もそうだが、国元からの指示が無いのが気になって仕方なかった。


「待って弥七クン。お上に逆らったら命令違反で殺されちゃうよ!?」


るりっぺが悲痛な声を上げる。

たとえ藩主を助けられたとしても、重罪は免れ得ない。

もちろん弥七にはそのことも頭にあった。


だけども。


主君のピンチに助けに行かなくて何が武士もののふか。


「なにも大人数でいくわけではない。私とここにいる3人で様子を見てくる。」

「「「お供します」」」


「嫌だよ弥七クン。死んじゃうよ。」

「そう簡単に死にはしないよ。」

「あたし、、、あなたの子どもがいるの!」


急な告白に仰天する弥七。


「そうか。めでたいな!では、子の分まで頑張ってくる。」

「いなくなったら、二人きりになっちゃうよ!?」

「大丈夫だ。いなくならない。すぐ戻る。」

「嘘つき!死ぬ覚悟のくせに!」

「今、死ねなくなったな。」

ニコリと笑う弥七。

「じゃあ、このカンザシを持って行って。私だと思って。それで、帰ってきたら返してね」


「いってくる。必ず戻る。達者で暮らせ。」

そう言い、カラオケをあとにする弥七。






「それが瑠璃との最後であったのじゃ。」

家老は悲しそうにそう話を締めくくる。


「ひどいっス!今こうして生きてるってことは、また会いに行けたんじゃないっスか!?」

三雲が憤る。


「ダメじゃった。謀反した宇佐美憂憂うさうさは斬ることができた。だが、私は命令違反で10年幽閉されたのじゃ。」

藩主、佐竹松竹まつたけはお上に助命嘆願し、命拾いしたが、それでもやはり10年もの間、久利呉藩内の家老の家から出ることを禁じられた。


「本当に会いに行きたかった。るりっぺがどうしているか、馬場に調べさせていた。いつになるかわからないが、幽閉期間が終われば会いに行けると思っていたのじゃ。だが、それは叶わなかった。」


二人が別れて5年後、るりっぺは交通事故で他界した。遺された子どもは女の子であること以外わからず行方不明。


「どうすることも出来なかったのじゃ。さんざん探させたが、見つからなかった…。残ったのは、このカンザシだけ。女将よ、このカンザシ、受け取ってくれぬか?」


無言で受け取る女将。


「生前使ってたものじゃ、母さんのものかどうかわからないじゃないか。」


それでも、るりっぺが好きそうな色柄であると分かったのか、女将はカンザシを大事そうにしまった。


家老、斬っちゃったんですけど、どうしたらよかったですか?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家老、斬っちゃったみたいなんですけどどうしたらいいんでしょうか 松田ゆさく @yusaku86

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ