沼ドロだらケー
翌日の放課後。何故か既にある部室に行き、席に座った俺たちは中心に立っている部長を見据える。
「さあ!部活の時間だ!私と一緒にいいことをしようではないか!」
「と言っても、一体何をするんですか?」
「今の言い方だと援交じゃないですか?やだぁ、ひわーい」
昨日やられた仕返しと言わんばかりに揶揄うと部長は口を膨らませる。
「ま、まあまあ。とりあえず自己紹介していかないかい?」
「無理」「パスで」「スキップっと」「リターンや」「+2」
落ち着かせる為に話の舵を取った吉瀬に容赦の無い応酬が繰り広げられる。
「ちょっと!途中からUN◯になってるんですけど!?」
「あ、お前最後に宇野って言ってない。二枚追加な〜?」
見知らぬ人が吉瀬に対して偽りの指摘をする光景に心底呆れて咳を立ち上がる。
「なあ、俺帰っていいか?」
「うん。ならお姉ちゃんと一緒に帰ろ?」
「嫌だ!って言いたいけど、これもう頼らないと出れそうにないもんな。しゃーなし、じゃあ帰るか」
一人で帰るにも突破出来そうにないので仕方なく一緒に帰宅しようとしてる姉の力を頼ってドアの方向に向かう。
「待て待て!待ってくれ!待ってくださいまってよぉ……」
慌てて人混みを除けてこちらに寂しげに片手手を伸ばす部長に溜め息を吐く。
「だんだん可哀想に見えてきたな、このままあの空間に放置してたら彼女終わるな。せめて話だけでも聞いてあげないと(使命感」
席に改めて座るとこれがやりたかったと言わんばかりに自身の胸に手を当てる部長。
「まず私が、部長の銘磴舞雪だ!これからよろしく頼む」
「そして私がテペリ男爵」
部長がノリノリで自己紹介をする隣でおそらくは関係のないであろう謎の人物の唐突な名乗りに俺等は頭を抱える。
「あのさぁ、俺らを部に入れたいならまずこのMAD作品みたいなノリを何とかして欲しいんだけど」
「いや、それは無理。私、テンションが高くないと死んでしまう病なんだ」
代わりに勝手にこちらの質問に答えるおっさん。多分他の皆も彼が発言する事を望んではいないだろう。
席から立ち上がって換気の為に窓を開けると近くにいたおっさんを窓から換気。
「なら死ね」
「ノォォォォォォォォ!!!」
つか、なんで部室にオッサンいんだよ。というか他にも意味不明な人達が何人かいるんだけども。
「次はお前だな、自己紹介してくれ」
「フッ」「おいどうした?」「フッ」「おい喋れよ」「フッ」
「喋れつってんだろ!!」
あまりにも自ら会話を進める気のない金髪の青年をぶん殴って窓から廃棄して換気。落ちる瞬間に叫び声が聞こえるが無視。
「これで鬱陶しい邪魔者は消えた。これからは俺のターンだ」
しかし触れてはいけない言葉を言っていたらしく、目の前に立ち塞がる者がまた一人。
「オイ、デュエルしろよ」
「"決闘"な?114514」
「グハッ!待て、何故殴る」
殴られる自覚がない彼に親切に型に乗ったセリフを吐く。
「"決闘"ってのはリアルファイトなんだよ!オラオラ!半端気持ちで入ってくるんじゃねぇぞ!デュエルの世界によぉ!」
今度は優しく本気で殴り飛ばしてドアから射出。その後みんなにが用事があると言ってから外に出て行く。
やがて用が終わって戻ってくると椅子に座って悪態をつく。
「ったくなんなんだよアイツ等は?最初に居たうるさい奴は?」
「完全に私の見込み違いだった。彼等は全員クビにしたよ」
「マジかよ。あれが全部ウチの部員候補だと考えると狂気だぞ」
そんな不安そうな吉瀬に一つ補足を加えておく。
「なに大丈夫だ吉瀬、アイツらはちゃんとカードゲーム部に転部させておいたから安心しろ」
「それはそれで良いのか?」
デュエッ!\(`д´)ゝ\(`д´)ゝ\(`д´)ゝ\(`д´)ゝ
余計な者も居なくなり一息付ける落ち着いた雰囲気になったところで部長に前から気になって居た事を訊ねる。
「なあ?一つ聞きたかったんだけど、部名は本当にこの遊部で出したのか?」
「ああ、それなら確かASO部で出したな」
当たり前の様にそう答える部長であったがこんな変な部活なんて本来は通る筈がない。
「急にパリピ感出してきたな。よくそれで生徒会はともかく、教員から許可出たよな。生徒会権限だけじゃ足りないな。一体どんな援助交際してきたんだよ」
「失礼な、そんな事はしてない。略語を説明したら進んで許可をくれたのだ」
「その略語ってのは?」
「Automatic Social Object」
「当て字もいいところだな。いや流石にいい加減過ぎるだろ」
意外な理由に少し驚いて興味本位で聞くがすぐにその行為を後悔する形になってしまった。
「それが意外に噛み合っててね。自発的に対象と交流するって感じの方に話を軌道修正したら先生が感激してくれてね?」
「オイあんた今ちゃんと軌道修正って言ったよな」
どうやら言われて気付いたようで先輩はぎごちなく顔を逸らす。
「さあ!今度こそ部活を始めよう!」
「あ、無視したよこの人。んで?具体的に何するのさ?ここでは」
「各々が考える楽しい事をすればいいの。具体的に案はある?」
「ゲーム」「帰って寝る」「駄弁る」「颯太を眺める」
先程の事もあり、あまり皆乗り気では無いのでそうそうまとも意見が出ない。
「ちゃんと真剣に考えないか!もっとなんかこう……色々あるだろう?女の子のスカートめくりに行くとか女の子にパンツを見るとか!」
「例え話が変態過ぎで無理だ。人の事をなんだと思ってやがる。もっとマシなもの無かったのかよ」
「それが言いたかっただけでしょ」
半ば暴走気味の部長に対して俺と姉が呆れ倒す。
「じゃあ他の人とは違う事がしたいの?」
「政治政策」「株」「豪遊!」「颯太に触れる」
「なんでそうなるのぉぉ!!最初に言った人からキーワード検索掛けてみたいにしないでよ!」
問い掛け直す部長に対し、完全に巫山戯る流れが出来てしまったので流石の本人もツッコミに回る。
「てかミオ姉はさっきから何を言ってるの?頭おかしいの?」
「じゃあ私のオデコに颯太のオデコ当てて見てくれる?」
「I☆YA☆DA」
統率が取れず、めちゃくちゃになった所を自称真面目さんである吉瀬が纏める。
「まあまあとりあえずは銘鐙先輩が何をやりたいか決めればいいんじゃないかな?えーっと先輩は何がやりたいんですか?」
聞かれた先の部長の方に視線を向けると何やら少し恥ずかしそうな表情をしながら消えそうな程の小さな声で視線を下に向けて呟いたように見える。
「……ごっこ」
「ん?」
「鬼ごっこがしたい」
『え?』
再確認のために聞き直した時の先輩の顔はなんだかとっても恥ずかしそうで少し罪悪感が沸いた。
★
校庭に移動すると他の部活動が活動する中で芝生が広がる競技場で空いているスペースに集まる。
「ルールは簡単、鬼が相手を捕まえて全滅されたら勝利」
「そうなのか?」
「まあ、そのルールが基本的だな」
「じゃあ、他のルールは?」
子供の頃に恐らくは皆が体験しているだろうからそこまでルールに違いはないだろうと思いながらも他の決まりを確認する。
「鬼がタッチしたらその相手が鬼になる終わる事のないエンドレスルール。エンドレス何とかにぴったりの遊びだ」
全身の体が硬直する。ちゃんとルールを確認しておいて正解だった。部長は一生終わらないゲームをしようと考えてたのだから。
「おい、やめろ。マジでそれはやめろ」
「確かに体力とか関係無く面倒だもんね。じゃあ他は?」
半分くらいは冗談だったのか部長は案を流してくれるが他に何が良いか考えてなかったので適当に思い付いた案を口に出す。
「ドロケーとか?」
「あー泥棒と警察がヤリ合う奴でしょ?」
「もうちょっとマシな言い方は無かったのかよ」
隣で姉が変態的とも言える言動に思わず頭を抱えるがふとある重要な事に気が付く。
「というか、そもそもこの人数で鬼ごっことか出来るの?」
「そう言うと思って、生徒会会長の平均太君を呼んでおいたのさ!」
待っていたかのようにサプライズゲストと言って彼女がその場から退くと後ろにはなんと知らない男の先輩がいた。しかもその人はこの学園の生徒会長だという。
「こんな事に何さり気なくビックな人呼んじゃってるんですか!やめて下さいよ」
「あの、副会長………自分、まだ書類の整理が残ってるのですが」
「しかも、まだ仕事中!?なんて事してくれてるんだアンタは!」
心の中で会長に謝罪をしつつ部長にツッコミを入れる。
「たまには体を動かすのも良いだろう、部員として君も参加してくれ」
「確か生徒会長って先輩じゃなかった?なんで部長がそんなに偉そうなのさ?」
「わかりました、副会長の意見なら仕方ありませんね。では少しだけ参加させて頂きます」
記憶が確かなら目の前にいる生徒会長は既に3年生で2年生である部長より年上であるのだ。しかしながら実際のパワーバランスは副会長である銘鐙部長の方が上の様にしか見えない。
「ってなんで会長もちゃっかりそれを受け入れちゃってるんですか。あなたそれで良いんですか」
諦めて溜め息を吐くような話し方をするが会長はこちらに向けてサムズアップだけしてくれた。
遊ぶ遊びも決まり、サプライズゲストの一悶着が終わると次にルールを明確にする。
「逃げてもいい範囲は全国、全員捕まえたら終了ね」
「アンタ鬼か!」
「何を言っている?鬼は会長だぞ」
「そんなボケなんかいるか!もっと難易度簡単にしろ!」
「えー、じゃあ市内にする代わりに何で逃げてもオーケーって事で」
ブーイングを入れると部長は軽く悪態を付いて駄々を捏ねるが妥協案を出してくれたがそれでも充分普通とは異なるその感覚に脱帽させられる。
「コイツはどんな家で育ったのかな?」
「豪邸じゃないかな?」
吉瀬がお手上げと言わんばかりに手を振って首を傾げている。今少し普段お前が苦労してる気持ちが理解出来たかもしれない。
ルールが決まったのを見て呼び出された生徒会長が前へ進み出る。
「ではゲームを始めます。自分はまだ雑務があるので最初のスタートの合図だけするので以降の進行はよろしくお願いします」
「結局なんの為にあの会長は居たんだ?」
鬼役を決めて準備が整うと帰る用意をしている会長が合図を出す。ちなみに鬼は部長と吉瀬の二人で少し鬼の比率が多いような気もする。
「よーい、スタート」
スタートの合図をしてその場から去っていく会長を見送るとすぐにその違和感に他の二人が気付く。
「え?逃げないの?しかも二人も?」
「いいか?良く聞いときな。この鬼ごっこには明確な必勝法がある。それは逃げない事だ」
「え?」
言われた言葉の理解が追い付いてない事を理解して少し自慢気に手を広げる。
「本来、逃げて鬼から離れるのがこのゲームの本質なんだが、これだと逃げる奴の体力が切れて捕まってしまう。だが、これを逃げるではじゃなくて避けるに視点を置いて考えてみると?」
「いや、そう上手く避けられるわけでもないでしょ」
「それはどうかな?試してみ?」
首でこちらに向かってくるように促すとすぐ様吉瀬はこちらの体の何処かに触れるように手を伸ばすが反射的にその動作を避ける。
「まだまだ!」
三度掴まれる勢いでこちらに突き向かうが本質を理解している為、吉瀬の手が体に当たる事はない。
「分からないか?簡単だろ、だって相手は手だけでしかこちらの事を捕まえる事が出来ないんだぜ?」
「いや、それは当たり前だけど理想論じゃん。それにそんな何回も起こる事じゃないでしょ」
吉瀬動くのを止めて自論に対する意見を言うがナンセンスとばかりに俺は首を振る。
「その当たり前の理想論を鍛えると立ち向かった事での生存率が上がる。だって相手の行動をちゃんと見ているからな。逃げてる時と違ってな?」
意表を突かれた様な少し茫然としている吉瀬を尻目に隣を軽く見ると同じようにピタリと動かない姉が目に止まる。
「良いのね?逃げなくて」
「構わない。神近家は昔からこのやり方で貫いている」
「その言葉。後悔しないでよ、ねっ!」
啖呵を切った勢いと共に素早く姉に近付く部長だったが先程の吉瀬の時の同じように姉に部長の手が届く事は無く、その攻撃を避け続けている。
「なんてデタラメな反応速度なの!?」
「そんな事言われてもね」
立ち尽くしているのに何故か手だけは触れる事が出来ない状態に吉瀬も目を奪われていたようなのでこちらに意識を向ける様にポイントを言う。
「そしてこれにはもう一つの利点がある」
「それは一体?」
「敵が飽きる」
興味を示した吉瀬に対して当たり前の事を伝えて彼を落胆させると隣で部長のヒステリックな声が聞こえてくる。
「もういいわよ!あなた達は後で捕まえるから!」
「視線誘導って言ってたのはこの為でもあったんだよ!これが本当のミスディレクション」
「嘘付け!そういうのはヘイト値っていうんだよ!」
「さあ、二人で協力してあの二人を捕まえるよ」
部長が吉瀬を鼓舞して片方ずつ仕留める作戦に変えた様だ。
「どうだ?さっき言ったことは本当だったろ?」
「明確な必勝法ではないだろ!」
「それもそうだな。だが、中々に負けはしないぜ?ただの一度も敗北はないとか絶対嘘だから。チートや改造を使った奴に勝つとか無理だから。けどな、相手が同じ状況であるのなら」
「「無敵!!」」
息を揃えて横で姉が叫んでいたが偶々向こうから合わせられただけで思い出すと少し恥ずかしくなった。
「なら二人で試してみるんだな」
同時にこちらに対して一気に責めてくる二人に諦めの溜め息を吐く。
「お見事」
こう言う時に体力があったら逃げ切れたんだけどな。
★
「というか、最初から数で責めてれば捕まえられるよね?なんで気付かなかったんだろう。アホじゃん」
吉瀬が深い溜め息を吐いて自身の愚かさを悔いているのを横から部長が励ます。
「まあまあ、全員捕まれられたし。私が想定してたものとは違ったけど楽しかったじゃん?」
「そうですけど」
「よし!なら次はマンション鬼ごっこを希望するわ」
「却下する、我が名はカミチカ」
「なんでよ!」
「ご近所さんに迷惑だからに決まってるダロォ!」
切り替える為に代わりの遊びを提案する部長であったが勿論そんな事をさせる訳にはいかない。
「まあ、なら別の遊びをすればいんじゃない?」
「じゃあ部室で話すくらいでいいかな」
「それはもう遊ぶ部活ですらないと思うんだが」
どうやら遊ぶ事自体に満足したようで他の要望が通らなかったので興味が無くなったらしく、踵を返した部長に合わせて帰宅する為に皆も校門の方角に歩いて行った。
ならず者達の秘密ごと ヒラナリ @hiranarin
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