ガバガバ面接
昨日の奇妙な出来事に若干の心配をしながら学校に来ると即座にそれまで感じていた悪寒を即座に理解した。
横には吉瀬が、さも当然の定位置かの様に突っ立っていたが最早それをツッコむ余裕はこちらには残ってなどいなかった。
「なんだ、これは………」
そこにあるのは長蛇の列。朝であるにも関わらず、新入生と在校生が入り混じったその整備された真っ直ぐな列は遥か遠くに見えるある一つの部室へと繋がっている。
そしてその部室の正体をおそらく俺は知っている。
(うん、ヤバイなコレ!)
(ヤバイヤバイ!)
お互いの顔を見合わせて笑顔で小学生並みの感想をアイコンタクトした後で現実に目を向ける。
「ねぇ?僕の予想が正しければ、この原因って君にあると思うんだけど?」
「そー、そんなわけないだろ」
「じゃあ、何なのさ。この––––––遊部って」
吉瀬が指差す先には確かにその文字が書かれている。しかし全く見覚えがないので知らない態度を見せ付けるが心当たりはバリバリにある。
「はて?そんなもの俺は知らないぞ?」
敢えて知らないフリをさせてもらうがそんなその場凌ぎは通用する訳もなく即座に吉瀬に突っ込まれる。
「知らない筈がでしょうが!!颯太、今度は一体何をやらかしたのさ!」
「いやマジで何も知らねぇんだってば!つかやらかすって何だよ!?俺はまだ何もしてねぇだろうがよ!」
言い合ったところで仕方ないからそこで言葉も止めたが、同時に溜め息も出てしまう。もう何なんだよこの高校マジでやりたい放題だろ。生徒の自主性を重んじているって言えば何でもオーケーになると思うなよ。
「随分と物好きが多いんだな。この高校」
「そうだけどさ。いくら何でもこの人数はオカシイでしょうよ」
呆れるように溜め息を吐く吉瀬だが、同時に並ぶ列にそれだけの魅力があるという事なのかもしれない。
「そだな、よっぽど今の高校に不満を抱えている人が多いんだろう」
「絶対名前に吊られてやって来た人が多いよな」
「そんな餌に吊られクマーってか?」
「やめろ、お前がネットの住民って事がバレるぞ」
「うるせえ、生憎俺はネットにもお友達はいない。SNSなんて俺にとってはもう全く新しいジャンルだ」
捻くれた筈が何故か自身にブーメランが刺さってしまい、地面に座り込む。
「あー……悪かった」
「分かればよろしい」
すげぇ憐れみの目で見られたんだけど、そんな悲しくねぇからな?寧ろソレされた方がキツイまである。
とは言ったものの主催者が昨日意味深な事言ってた知り合いなもんだから無視するわけにもいかないんだが………
「んで?これ、どうするよ。責任としていくべきなんだろうけど」
「いや、帰る」
「え?」
「んじゃ、そういう事だ。じゃあな?」
絶対面倒だからすんなり戦略的撤退しようするが、もちろん吉瀬に手を捕まえられて止められる。
「待て待て待て!帰っちゃダメだろ!絶対お前との関係があるだろ!」
「やめろぉ!離せぇ!あんな部活、俺は知らん!」
「嘘付け!昨日あの部屋で生徒会の副会長と意味深な話してたじゃないか!」
昨日出会った年上の先輩の唐突な新情報に目を見開く。
「は?副会長?あの人が?うせやろ?こういう時、普通ああいうのは生徒会長ってのが定石なんだよ。よってあの部室は無関係」
「指摘すんのそこ!?そんな訳ないだろ!とにかくさっさと並んでみるぞ」
「きっとあの部活は違う部活だってば。部長もきっと違うって」
「なわけないだろうが、名前がしっかりと副会長の名前だ。さっさといくぞ」
嫌と言っているのにも構わずに吉瀬に襟を掴まれながら近くに連れて行かれる。
入り口から部屋の様子を見るとやはり彼女が皆の相手をしていて現実逃避が先に勝って本能的に危機感を覚える。
「なぁ?やっぱり帰ろうぜ?こんなに待つんだったら帰ってもいいんじゃないか?ほらまだ朝だから放課後にまた来るとかさ?」
「それお前絶対帰る流れじゃん」
けっ、バレたか。
「でも別にその部活が楽しいとは限らないじゃん?」
真面目な事を指摘した事に吉瀬は黙り始めたのでチャンスとばかりに畳み掛ける。じゃないとこのまま連れてかれる。
「ほらほら、みんな落ち込んだ顔で帰ってくぜ?俺たちも帰ろうよ?きっと楽しい部活じゃねぇんだって。厳選してるんだよ、生徒をさ?だから俺らなんてお呼びな訳ねぇんだって」
「それよりもこの遊部ってのはどういうことなんだろうな?」
「おい!クソイケ野郎!話を聞けよ!」
そのままこちらを無視して考える彼の姿を見て仕方なく立ち上がって部室の中の光景を捉えると予想外の光景が見えて唖然とする。
「ちょっと待て。これ面接じゃん、なんで部活に面接があるのさ?明らかにオカシイだろうがよ。なんか試験の練習じゃないの?きっと場所間違えんだよ俺たち、帰ろうぜ?」
「面接なんて今時何処でもやるじゃん。抽選する時とかでもあるよ」
さらっと常識の様に吉瀬は話すがよく考えると他では見た事がない気がする。
「いや待てそんな話は初めて聞いたぞ。つか俺の話無視すんな」
そこからというもの、俺の話を以降ほぼ奴が無視してると結構な列があった部室前はあっという間に減ってついに俺たちの番が来てしまった。
吉瀬は律儀に入る前にノックをして様子を確かめると向こうから声がする。
「どうぞ」
「失礼します」
俺の襟を掴んだまま引きずる形で扉を開けて中に入れるとマジモンの面接光景がそこにはあった。おいやめろ、世の中の大半の人のトラウマを見せつけんな。
「それではそこに座って下さい。あ、神近君はこっちに来てね」
「「え?」」
何故か既に居場所を確保させてた様で招待された事に二人とも驚いたがそもそも参加したくないので扉に行こうとするのを吉瀬に止められる。
「いや俺ちょっと嫌なんで帰ります」
「草、いやダメ」
なんだこの副会長、あっさりネットスラング使ってきた。
「なんで颯太はそっちなんですか!俺も混ぜて下さい!」
「おいバカ、羨ましがってんじゃねぇよアホ!」
「まあ強いて言うなれば彼は推薦合格者だよ。君も彼と一緒の部活に入りたければ私の面接を受ける事だね」
優秀な人材だという事に対抗心を燃やしたのか吉瀬が闘志を燃やし始める。
「そうですか、わかりました。ではそうさせてもらいます」
「俺は入るなんて言ってないんだけどな」
「じゃあ神近君はここに座ってね」
手招きされて副会長に近づいて見ると座れる椅子が一つもなかった。
「いや何処ですか?」
「ん?ここだよ、ここ」
そう言って彼女が手を叩く席は座っている彼女の太腿であった。太腿に目に通してしまったその時には既に手を掴まれてしまっていた。
「いやちょっと待って、それは流石におかしいィィィ!?力強っ!あ、柔らかぁ」
仕方ない、今回は女子高生の太腿に免じて座ってあげようじゃないか。決して好奇心とかに負けたわけじゃないぞ!誘惑されて虜になっただけだ。
「身近に抱くものがあるととても妙に落ち着くのでな」
「誰がどう見ても俺邪魔でしょ、どっかに放り投げといてよ」
「えー、そんな事ないよ?背中に顔埋められて匂い嗅げるし、胸押し付けて反応楽しめるし」
言ってなかったが銘鐙先輩はスタイルがいい、170近い身長にスラリと長い体躯。股先が長く。バランスが整った曲線美、肌はきめ細かく、髪はストレートのサラサラ白髪。ミオ姉と似たようなタイプではあるが姉とは違う魅力がある。
「あ、悪魔だ。エチエチな女子がおる」
「では、どうぞ」
現在、太腿の間に座る俺は彼女に抱きしめられて彼女の顔が肩に乗せられる形で拘束されている。密です。蜜月ではないです。
誰がどう見ても真面目な状況ではないのに雰囲気だけ真面目の状態で吉瀬の面接は始まった。
「は、はい。一年一組の吉瀬修夜です」
「そうか、ならいきなり本題の質問にいこうか。君はどうして私のこの部活を選んだんだい?」
自分から言うくらいだから余程の理由があるらしく、少し考え込むと静かに口を開く。
「日常とは違った事がしたくて」
「うそつけ」
「そうだな。君は不合格だ」
「なっ!?」
なんか奴が驚いた面しているが、言ってる言葉に真実味がないので当たり前だろう。
「こんな事で真実を語らない者にはここに入る資格は無い。ここは正直者が集まる場所だからな」
「うそつけ」
二人とも嘘つきだから俺が居なければいい部活になる事だろう。
「おやおや、バレてしまったか。流石は私の神近君だ」
「私物化すな」
「それだとさっきのまで話が無意味になるんですけど!?」
「じゃ俺正解したんでこの状態から解放してくれるとありがたいんんんん!!」
抱きしめられながら急に身体を弄れて変な声が出てしまい、話す事をキャンセルされてしまった。
人権が実質無いのでもはや黙っている事しか出来ないので諦めてスマホを取り出してSNSを開く。
「では次の質問だ。ここに入ったとして、君はここで何をしたい?」
「自分が心から楽しいと思える事がしたいです」
銘鐙先輩がした問いに今度は嘘偽り無く吉瀬が答える。
「おや?それでは他の部活がつまらないみたいに聞こえるね?」
「確かにそうかもしれません。でも違った事がしたいってのがありますから」
「成る程、平凡だね」
「え?そうなんですか?アイツ結構サイコパスですよ」
「そうなのかい?それはいいね」
「でもそれではただのリア充を求めているだけだろう。何か君は別のものを求めているようにも見えるが?」
「分かりません。ただ僕は、自分がどう変わればいいか悩んでいるのかもしれません」
「成る程ね、つまりは高校デビューか」
「え?まあ、確かに。そう言われてみればそうかもしれないです」
「そうか」
「うーん、何と言うべきか君は凄く普通だね。これと言って何か変わっている部分も無いしなぁ。ウチの募集要項は変人……ゴホンゴホン!変わった人達を求めているからね」
「ではやっぱり」
「うん、そうだね。合格だ」
「え?」
断られると覚悟をしていた吉瀬の顔が溶けたようにカゴが開いている。
「いやね?何も普通だからって拒否するわけじゃないさ。ただ君の場合は性格や行動は普通だけど捻ればきっと良いキャラになると思うんだよ」
「それは人としてやって良い事なのか?」
「現にこの神近君との関係で君の片鱗は現れている事だしね」
こちらを見ながら語り掛ける先輩に対して吉瀬の今までの行動を思い返すと確かに変人気質があるところがあっただろう。しかしながら反論したい事が一つ。
「それだと俺が相当ヤバイ奴っていう意味に聞こえるんだが」
「その通りだ。君は私が求めていた理想のタイプの人間だからな。ということで早速で悪いが明日からよろしく頼む」
「はい!」
喜ぶ吉瀬に対して仕方なくこの部活に入らされる事を諦めて先輩から離れようとする。ガッツリ話してくれない。
「じゃあ俺の状態もいい加減解放して欲しいんですけど。地味にコレ、いやかなり恥ずかしいんですよね。というかこの状態は正直やめといた方がいいと思いますよ?」
「お?やっぱりそうだったか。ならこれはやめる訳にはいかないな」
したり顔をする先輩で何をしようとしているかにようやくそこで気付いた。
「ちょっ、アンタ!それはアカンって!マジでやめといた方がいいって!」
「そうだね。このままもう少しこの光景を見せないとねぇ」
恐らく俺は餌でこれから来る本命が用があるらしく先程のメッセージを送った事に後悔をした。
「忠告はしましたからね?」
「じゃあ〜、このまま味見もしちゃおうかなぁ?」
冗談を言いながら若干顔がガチになっている先輩から逃げようと試みようとした瞬間、先輩の肩に手で掴む誰かがいた。
「おい、そこで何をしている」
「お!キタキタ!私の筆頭株!先日の話を受けてくれるのかな?」
開けた痕跡も窓を突き破った痕跡も無かったが、確かにそこにはウチの姉がいた。
「ええ、別に良いわよ。あなたの存在を消した後でね?今なら特別に私が部長になってあげるわ?」
「ミオ姉落ち着いて、ステイ」
一応止めておかないとこの先に何が起こるかわからないので口だけでも止めておく。
「颯太、大丈夫?今からお姉ちゃんがアイツの事ブッ殺してきて………排除してきてあげるからね?」
「変わってねぇよ」
目的の為なら手段取らないミオ姉に対して嬉しそうに先輩は笑い始める。
「ははは、やはりぶっ壊れだねぇ美織は。ずっと見てて何処かネジ外れてると思ってたんだけど、やはり原因は弟君だったか」
「言っとくけど笑ってる暇なんてもう無いから。折れてない骨が無いと思わない事ね」
直後先輩にミオ姉が掴み掛かろうとするが先輩は俺を離して対抗するようにミオ姉の手に掴み組む。
「残念、実は私強いんだよ?どう?動けないでしょ?ねぇ?知ってる?私がどうしてこんなに強いと思う?」
「ダメだこりゃ」
取っ組みの様子を見て、敗北を確信する。対抗出来た人を見て少し驚きはしたがそういう事じゃない。
「ふふん、諦めて観念………って、あれ?ちょ、ちょっと待って!え?嘘!ちょっヤバいコレ」
姉は何故か昔から対人戦がめちゃくちゃ強い。気性が荒く、力も剛力でヤンキーみたいな生き方がピッタリのようなタイプの人なのだ。
「ねぇ?知ってる?私がどうしてこんなに強いと思う?」
既に地に膝を付けている先輩は更に上から圧力を掛けられる。
「待って待って!ギブギブ!私が悪かったから!イタズラが過ぎました!」
「答えはね?あんたみたいな颯太の邪魔になる奴を消すためよ!」
多分の原因は不容易な接近だったと思う。なんか姉は俺の近くに女が居るのをあまり許容しない。
「あぁぁぁぁ!!!折れる折れる!助けて神近君!」
「気安く颯太を呼ぶんじゃないわよ!」
割と見慣れている光景に溜め息を吐きながら愚痴を溢す。
「部活は正直入りたくないんだよな。マンネリ化するし、グダグダで自然崩壊しそうだし。でも可愛そうだから仕方ないか………ミオ姉それ以上やるなら今日はもう話さないよ」
「んな!なんて酷い事を!」
驚いてすぐ様先輩の手を離すとタイミングを見計らって吉瀬がビクつきながら訊ねてくる。
「颯太、これ一体どういう事なんだ?」
「うん、流石に展開が過ぎてお前は付いていけないと思ってた。一応紹介するとな、この先輩は俺の姉だ」
「神近美織です、颯太に何かあったら消します」
「へ?」
さらっと物騒な事を言うので吉瀬も硬直して何も言えなくなってしまう。当たり前だと思う。普通そんなこと言われたらもう近づかないだろう。
その間に何とか回復して立ち上がった先輩は自分たちの間を通って行き、視線を誘導させる。
「さて、これで全員揃ったわね」
「え?でもまだメンバーが足りないと思うんだけど。部活にするにしても一人足りないんじゃ」
尤もな事を吉瀬が言うが大丈夫だと先輩が静止させる。
「それは問題なく居るよ。最初は五人か六人でやってこうとしてるから問題ないよ。それにその内増えるしね」
サプライズをしたいと思っているのか先輩の顔に出ている。
「推薦枠が他にもいるんですね」
「とっておきの人がいるから楽しみにしといてね?」
「それ絶対問題ある人ですやん」
それを指摘されると彼女はひたすら明後日の方向に口笛を吹いていた。
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