親から捨てられ悲惨な人生を辿った女の子が天使のような箱入り娘と出会い、その子に成り代わって生きる事になる話。
いきなり壮絶な回想から始まって追い打ちの様な事故が発生しますが、そこから一転お姫様の様な生活を送る事になり、更に一転して最後は予想もしなかった終わりを迎える。
彼女は自分を死出虫の姫と称しましたが、全然そうじゃなかったんですね。死出虫でもなんでもないただの不幸な女の子なだけ。
いくら喉が焼けた事で声が変わっていたとしても娘を間違える物なのか?もしかしたら両親も自分達を騙して娘だと思おうとしているのでないか?と思いながら読んでいましたが、まさかそうくるとは思いませんでした。見事なグルン。清々しいほどにやられました。
生まれた瞬間からひたすらハードコアな人生を送ってきた少女が、記憶を失ったフリをして他人になりすますお話。
序盤からいきなり情緒をへし折られました。ちょっとなんですかこの悪意と地獄のオールスター感謝祭みたいな状況。あまりにも救いがなく、そのうえ出口すら見えない無間の苦難。その畳み掛けるような重く烈しい描写に、読み始めて早々心を鷲掴みにされました。
お話の核そのものは非常に明瞭で、これは友情の物語です。ひたすら悪意に曝され続け、とにかく生き残ることで精一杯だったひとりの少女が、不意にそれを拾ったらどうなるのか、というお話。この描かれ方がなんとも巧妙というか、それはおそらくこれまで彼女の中になかった概念、ほとんど初めて目にする宝石のようなもので、つまり的確に表現するための言葉どころか処理の方法すらわからないものを、彼女が自分の中でどう受け止め、位置づけ、噛み砕くのか。スラスラと饒舌な、一見冷静で利発そうに見える一人称体の中の、でも微かな揺らぎのようなブレのようなもの。自分自身をシデムシに喩えたことの意味。
そのうえで、なお巧いのがきっかけとなった事件そのもの、特にその真相を読者も彼女自身も知らないことです。ある種ミステリ的な要素でもあるのですけど、でもそれ以上に一体なんてことしてくれるというかどうしてこんなひどいことが思いつくんだというか、もう本当心をメタメタにやられました。グイグイ引き込んできっちりボコボコにしてくれる、とても容赦のない作品でした。