第5話 妹の成長

リリーは、朝からソワソワしていた。

髪の毛をくるくるに巻いてもらい、何度もティアラをつけては、外すを繰り返す。


ルーカスも自分の誕生日ですら、こんなに楽しみだったことはなく、リリーと一緒にニコニコ待っていた。


お誕生日会用のドレスをエマが作ってくれていたらしく、リリーは驚いていたが、凄く喜んでいた。エマとスリスリしているのを見て、ルーカスは割って入る。


リリーを抱きしめて、気が済んだのかと思えば、やっぱりリリーの近くに座る。

独占欲というのか、何というのか。エマは複雑な気持ちで、それを見つめた。


ジェームズが昼に仕事を終えたら、帰ってくるというので、案外早かったな、と思いながら、準備に取り掛かる。


ジェームズが大きな箱を抱えて帰ってきた。多分、プレゼントなのだろう。

リリーにとって、誕生日は生まれて初めてのイベントで、ルーカスの誕生日の時も思ったが、幸せの象徴だ。


このイベントを新しい大切な家族と過ごせることが何より幸せだった。


ケーキにロウソクを刺して火をつける。

ゆらゆらと揺らめく火は、何故かリリーの心を切なくした。

心の中に一つお願いごとをする。

フーッと息を吹きかける。

リリーは11才になった。


プレゼントを見ていく。エマは食べられるプレゼント。美味しいものばかりが、目の前に並べられていく。ジェームズのプレゼントは、やっぱりあの大きな箱の中にあって、そこには、学校用品がいっぱい入っていた。


「そろそろ学校に行きたいんじゃないかって思ってね。勿論、行かなくてもいいんだよ。」

リリーはジェームズに抱きついてお礼を言った。

「ありがとう、お父さん。学校、行きたい。」

「うん。じゃあ行こう。心配しなくても行き帰りはルーカスと一緒だよ。」

リリーが、ルーカスをみると、弾ける笑顔で、抱きしめられた。

リリーに、ずっとスリスリしている。


くすぐったくて、リリーが身をよじる。

ルーカスはもふもふでリリーの動きを封じた。


「はーい、ケーキ食べよう。」

エマの声で、みんなが集まる。

ケーキの一番上にあるお人形は、今日の主役であるリリーのものだ。


リリーは、お人形が、よく見ると女の子と男の子で、自分とルーカスみたいだと思った。ルーカスのケーキに女の子をのせる。


ルーカスは驚いていたが、嬉しそうに笑った。

「ありがとう、リリー」

「お揃いだね。」

ルーカスの笑顔に釣られて、リリーもとびっきりの笑顔になった。


リリーは、こんなに幸せでいいのか、わからなかったけれど、こんな日が続くことを信じていた。


ルーカスに連れられて、学校へいく。

学校だから、いっぱい人がいるから逸れないように、と手を繋いでくれる。ルーカスの体温が伝わって、安心できる。


リリーは、些か緊張していた。同年代の子供たちに、異質だと思われないかと。


ルーカスはずっと「行きたくないなら、行かなくてもいいよ。」と言っていて、リリーは、行けば何かまずいことでもあるのかと、勘繰っていた。


そのうち、ルーカスの友達らしき人に声をかけられる。ルーカスが咄嗟に間に入る。背中が広くて、何もわからない。

背中越しに、首が出てきて挨拶を交わす。

「君がルーカスの妹さん?僕ルーカスの友達のアイク。よろしくね。」

「あ、よろしく…」

手を差し伸べられ、握手をしようとしたら、ルーカスに先に手を掴まれる。

「お前が、リリーに触るな。」

「いいじゃない、別に。握手ぐらい。」

呆れたようにルーカスに非難の視線を送っているが、拒否されたアイクは、リリーに同情の目を向けた。

「大変だね、こんな兄で。いつでも相談にのるからね。」ひらひらと手を振って、彼は離れていった。


「リリー、あいつは覚えなくていいからな。」

必死な様子のルーカスの顔を見る。


せっかく声をかけてくれたのに…

ルーカスに初めて不満を抱いたリリーだった。


その後も、ルーカス絡みで、次々に声がかかるが、全て阻止されてしまった。

リリーは、自分が友達を作るのは、ルーカスが嫌がることを知った。


ルーカスが優しいからって、甘えてたから怒らせてしまっていたのかも。

リリーは悲しい気持ちになった。


学年が違うため、授業は別々なので、クラスで友達を作ればいいと割り切って、ルーカスを見送った。


ルーカスは名残惜しそうにしていたが、諦めて自分の教室に向かっていった。


ルーカスが離れていき、早速女の子に声をかけられる。「さっきの、お兄さん?凄くかっこいいね。」

「うん。かっこいいんだ。」


リリーはルーカスに番だと聞いていたが、それをここで言ってまた怒らせたら、と思うと、言えなかった。


「あ、私マリア。よろしくね。」

「リリーよ、よろしく。」

リリーはようやく、ルーカス以外の獣人と握手を交わした。


周りの獣人たちとも、あっという間に仲良くなる。どうやら、ルーカスが怖くて遠慮していたみたいだ。


リリーは、帰ったら、早めに謝って、機嫌を直してもらわないとな、と思った。


初めての授業は、エマの教えの復習で、難なくこなせた。ルーカスが帰りに迎えに来て家に帰る間、リリーは学校の楽しさと、お礼をルーカスに伝えた。


ルーカスは、少し苦しそうに笑って、リリーの匂いを嗅いだ。


そして今、ルーカスの部屋で、リリーはルーカスに寄り添われている。何故か近い。非常に近い。


「学校で、何かあった?」

ルーカスの様子がおかしい。リリーは自分を助けてくれたルーカスにお礼がしたかった。何か自分にもできることがあるのではないか、と。


ルーカスは一言「ずっとここにいて」と言って、リリーは勿論、と頷いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る