第4話 新しい身体
リリーの体重が増えて、身長も伸びてきた。まだ10才には無理があったが、8才ぐらいのサイズにはなれた。
エマが、採寸をしてくれる。
また、服を作ってくれるつもりらしい。
「まだ前の、入るから大丈夫。」
「やだね、あたしが作りたいんだよ。」
女の子の服は可愛いから、と言って
いつもたくさん可愛いのを作ってくれる。
ルーカスも採寸する。お揃いの服を作ってくれるらしい。柄を選ぶ。今回は2人で選ぶ。ルーカスはスタイルが良いから何でも似合うとリリーは思った。
ルーカスが学校に行かない時は、庭で遊ぶようになった。雑草を抜いたり、草花に水をやったり、植え替えたりして、お手伝いもした。
「リリーって言う花はどんな匂い?」
エマに聞くと、「ここにはないね。でも、すごく可愛い女の子らしい匂いだよ。」と教えてくれた。
「リリーにぴったりだよ。」
ルーカスが笑う。
「そういえば、この辺りの茂みにいたよね。」
ルーカスが、懐かしそうに目を細める。
「ついこの間なのに、遠い昔みたいに感じる。リリーがいない頃、僕どうやって過ごしてたんだろう。考えられないよ。」エマも頷く。「リリーがウチを選んでくれてよかったね。」
「うん。ここに辿り着いて良かった。」
リリーも心の底からそう思った。
ある日、ジェームズが百合の苗木を持って帰って来てくれた。
「リリーの香りだよ。」
近くで吸い込んでしまってむせる。
「匂いが強いから、庭に植えよう。風が匂いを運んでくれるよ。」
エマは言い、庭の一番見やすい位置に植えてくれた。
窓を開けるとほのかに甘い匂いが漂ってくる。
このくらいがちょうど良いな、とリリーは思った。
リリーの香りを嗅いだ後、ルーカスの匂いを嗅ぐ。ルーカスの方がさらに甘い気がする。
ルーカスはリリーがひっついても決して嫌がらない。それどころか気がつくと後ろにいたりして、鏡の前で驚くことがある。自分に耳が生えていると、驚いて後ろを見ると、ルーカスがいる。耳はルーカスの耳だった。
「リリーに耳が生えたら今より一層可愛くなるね。今でも十分可愛いけど。」
リリーは人間だから、耳は生えない。
耳みたいな飾りを作って頭に乗せたらいいかな?と考えていた。作り方はエマに相談するつもりだった。
ある朝、まだルーカスが寝ていたので、先に顔を洗おうと洗面台へ向かう。
洗顔し、顔を上げたら、頭の上に耳があった。ルーカス起きてきたんだ、いつもより少しはやいな、とリリーが後ろを向いた。
誰もいない。
あれ?
リリーは、もう一度鏡を見る。
やっぱり耳が見える。
恐る恐る頭の上に手を伸ばすと、
自分の頭にルーカスと同じような耳が生えていることがわかった。
え?何これ?
軽く引っ張ってみる。人間の耳はなくなっている。人間の耳がなくなって、頭に生えた?
え?
リリーがあわあわしていると、ルーカスが今度こそ後ろにいて、リリーを抱きしめた。
「リリー、やっぱり最高に可愛いよ。」
ずっと人間だと思っていたのに、耳が生えている。リリーは鏡をみて、死ぬほど驚いたのに、ジェームズはじめエマ、ルーカスみんな、ニコニコと微笑んでいて、ジェームズに関しては、ほっとしたような、憑物が落ちたような顔をしていた。
「やっぱり獣人で間違いなかったか。」
「…やっぱり?」
「うん。リリーが前にいた施設は、獣人の子供を攫って、色々な研究をする施設なんだ。その施設は、ここから遠く離れた所にあって、人間だったら、何日もかかる上に辿り着けない仕掛けがあるんだ。この森の中は、人間を足止めする仕掛けが、ちりばめられているんだ。だから、君が逃げてきたことが、何よりの証拠だし、その施設にいたことも、獣人の説明になるんだよ。」
リリーは、小さくても、獣人だったから逃げることができた。自分が人間でなくてよかったと思う。
ジェームズは続けた。
「前に夢を見た話をしただろ。あれは多分君の母親ではないのかと。もしあの狼が君の母親なら、君は狼の獣人だ。ま、これは僕の希望だけどね。」
リリーは夢で狼を確かに「お母さん」と呼んだ。狼は人間を産まない。狼の子は狼だ。
「獣人は、イヤかい?」エマの問いかけにリリーは首を横に大きく振った。
もし、自分が獣人だったら…
ルーカスのモフモフを自分も持っていたら…
ずっとこの家でくらせたら…
ずっと考えていた。
自分が人間なら、好意で、家族にして貰っても、最後まで一緒にはいられないのではないか。
いつか、捨てられてしまうのではないか。
そう思っていた。
「…嬉しい…私、狼の獣人で、嬉しい。みんなと同じ狼…」
リリーの目に涙が溢れた。
エマが抱きしめてくれる。
ルーカスが、尻尾でモフモフしてくれる。ジェームズもエマの後ろから抱きついてくれる。
リリーの涙は暫く止まらなかった。
獣人の兆候が現れた後は、身長があっという間に伸びた。まだルーカスには及ばない。ルーカスは、少し焦ったようだった。
「もう膝には乗って貰えないかも。」
寂しそうに呟いていたが、たしかに膝にはもう乗れない。
でも、リリーが抱きついたら、抱きしめ返すことはできる。同じ分量で、同じ目線で、同じ力で抱きしめ合うことができる。
スリスリと顔を近づけて
「お兄ちゃん、大好き。」
と言うとルーカスに
「リリー、可愛い!僕も大好きだよ!」
痛いくらい、スリスリされた。
リリーはモフモフを手に入れた。
今なら何でも出来そうな気がした。
自分が人間だと思ってたころより、
力は入るようになった。あの頃はガリガリで栄養も与えられてなかったので、当然だが、歩いたり走ったり、子供なら当たり前にしていることができる。
リリーは幸せを噛み締める。
その顔に恐怖の影はもう無かった。
明日はリリーが、この家にきてちょうど一年たつ日だ。
リリーは自分の誕生日を覚えていなかったので、家に来た日をお誕生日にした。
だから明日は初めてのお誕生日会だ。
今日、生まれて初めて、リリーは獣人の街に行き買い物をした。いつもジェームズが買ってきてくれるお菓子の店に行って見たかったので、エマに連れてきて貰った。
「リリー、どのケーキがいい?」
小さいケーキは見たことがあるけど、大きいケーキは初めて見る。
ケーキの上に、可愛いお人形がのっている。
チョコレートのケーキにする。
リリーの名前付きだ。
特別、に嬉しくなる。
街の中を歩く時は、ルーカスとエマと手を繋ぐ。獣人がたくさんいるので、逸れないように。
ルーカスが学校の友達に声をかけられる。今から遊びに行こう、と誘われている。ルーカスは首を振り、戻ってくる。
「お兄ちゃん、お友達、いいの?」
「うん。リリーと一緒にいたいから。」
顔を近づけてスリスリする。
ルーカスの匂いに安心する。
「家へ帰ったら、明日のために飾りつけしような。」
ルーカスが楽しそうなので、リリーは嬉しかった。
飾りつけをしていると、エマが頭につける飾りを作ってくれた。
ティアラ、と言う繊細でキラキラした物を頭に乗せた。
「可愛い。母さん、天才!」
ルーカスがエマを褒め称える。
「そうでしょ!私、天才!」
鏡で確認すると、ティアラがキラキラして、綺麗だった。
「気に入った?」
「うん、お母さん、ありがとう。」
エマにくっついてスリスリする。
明日使うので、頭から取って壊れないように、大切にしまう。
リリーは学校にまだ行ってないので、友達はいないけれど、明日はジェームズも早く帰ってくるので、誕生日会を家族でやる。
エマはこれまで、リリーが好きだと言ったご飯をたくさん用意して、ルーカスはリリーの髪飾りをエマに教えてもらいながら作り、プレゼントするつもりで、ジェームズも何かしら用意していた。
明日が楽しみすぎる。じっとしてると顔がにやけてしまうリリーをみて、ルーカスは幸せを噛み締めていた。
本当に、リリーがいなかった頃の自分がどうであったかが思い出せない。こんなに愛しいものが出来るとは思わなかった。
友達に声をかけられたときも、無視しようかと思ったぐらい、リリーの側を離れたく無かった。しかもあいつら、リリーを見てたし。
リリーにあいつらを見せたくなくて、顔にスリスリして、視界を遮った。
リリーは知らない。
自分の醜い一面を。
リリーは楽しみにしているが、本当は学校にすら行かせたくない。僕だけのリリーでいて欲しい。
眠ってしまったリリーに、尻尾を巻きつけると、気持ち良さそうにニッコリしてスヤスヤ寝息を立てている。
リリーのフニフニした頬にキスをする。
「愛してるよ、リリー。」
ルーカスはいつも通り、自慢のモフモフでリリーを包み込んだ。
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