第2話 新しい家族

リリーが朝起きてはじめにした事は、体のサイズを測る事だった。

リリーが持っていたのは、逃げた時の服一枚だけ。


エマは、裁縫が得意らしく、動きやすく、可愛い服を作ってくれるつもりだった。


見たこともない色鮮やかな布地にリリーは心を奪われる。

「選んでいいよ。」

布地の絵が何かわからないものも一つずつ教えて貰いながらリリーは選び終えた。

その他、いくつかの布地をエマが選び、

「これは、あとのお楽しみ」と笑顔になった。


「先に朝ごはんだね。」

ルーカスは今日も学校らしく、朝からガチャガチャしていた。

「リリーと遊んでたいな。」

といいながら、きちんと行く用意をする。


ジェームズはもう仕事に行ったらしく、一緒に朝ごはんを食べることは出来なかった。


「今日は忙しいよ。手伝ってくれるかい?」いたずらっ子のような笑顔のエマにリリーは大きく頷いた。


ルーカスを送り出す。

後ろ髪を引かれるようにしていたが、

「すぐに帰ってくるからな。」

と言って、案外楽しそうに学校へ向かった。


「じゃあ、まずは洗濯だね。」さっきまで寝ていたベッドのシーツを丁寧に剥ぎ取り、洗濯機へ入れる。新しいシーツをベッドにセットする。エマがほとんどやり、届きにくいところを小柄なリリーが入り込んで、綺麗にした。


「やっぱり2人でやると、楽だね。ありがとう。」

リリーは嬉しくなって、他のお手伝いも頑張った。


はじめてのことが、楽しかった。

床を雑巾掛けしたり、布巾でテーブルを拭いたり、大したことは出来なかったけれど、リリーはとても楽しかった。


お昼ごはんを2人で食べる。

用意も片付けも楽しい。

誰かと食べるご飯は美味しい。


これは昨日までは知らなかったことだ。


お昼ごはんのあと、ウトウトしていると、ソファーにエマが連れて行ってくれ、タオルケットをかけられる。窓から入る風が心地よい。


隣でエマが、じっと何かをしていたが、睡魔に負けてしまった。



スースーと寝息を立て始めたリリーの髪を撫でながら、エマは先程選んだ布地でいくつか服を作ろうとしていた。

ミシンは音が大きく、起きてしまうので、とりあえず小物は手縫いで、大物は起きてから作ろうと型紙を作る。


エマの息子はルーカス一人だが、本当は女の子も欲しかった。念願の女の子の服が作れる、とウッキウキだった。


リリーが目覚めたときには、髪を括るゴムにリボンがついた物と、髪を留めるクリップにレースがついた物が出来上がっていた。


エマがリリーを前に座らせ、髪を結ってゴムをつけてくれる。

顔周りがスッキリして輪郭が露わになった。


「やっぱり、可愛い。」

満足そうにエマは呟いて、服を作るために、奥の部屋に入って行った。


リリーは何度も鏡を見て、自分の今の顔を自分に慣れさせようとした。

なぜかムズムズした。

これをルーカスに見て欲しくて、

早く帰ってこないかな、と意識を飛ばした。


ルーカスが帰ってくる少し前、リリーのワンピースが2枚出来上がっていた。両方着て、おかしい所がないか見る。


シンプルなワンピースだったが、リリーはあまりの可愛さに驚いた。

「これでルーカスをびっくりさせてやろう。」エマが笑い、リリーも驚くルーカスを想像して、自然と笑顔になった。


ルーカスが帰ってくる頃、エマとリリーはソワソワしていた。


ガタガタと、扉が開く音がした。

「リリー!」

ルーカスが固まった。

「え?リリー?」

キョトンとした顔で固まっていたと思ったら、ルーカスの顔がみるみる赤くなった。エマは、吹き出した。


「あっはっはっはっ、はぁ、おかしい。」


ルーカスは、苦々しい顔をしてエマを睨んだあと、リリーに駆け寄り、

「リリー、凄く可愛いよ!」と抱きしめてくれた。


ルーカスは胡座をかいて、その上にリリーを座らせ、今日学校であったことを話していた。


その姿は兄と妹のようだった。




ジェームズが仕事を終えて帰ってきたのは、子供達がベッドに入ろうとした頃だった。

「まだ起きてたのか。」

「もう、寝るところ。」

ルーカスが、目を擦り睡魔と闘っているリリーを連れて、部屋を出ようとする。

「リリーをうちの子にしようと思う。」

ジェームズは満面の笑みを息子に向けた。


「本当に?リリーが妹になるの?」

「あぁ、さっき国に話をしてきたからな。」

ルーカスはジェームズに飛びついて、感謝を伝えた。


リリーはすでに夢の中だったので、ちゃんと聞いていなかったが、ルーカスとエマの喜びようは、相当だったらしい。


「リリーが妹…可愛い妹…」

「詳しい話は明日な。」

「わかった。ありがとう!」

ルーカスははやる気持ちを抑え、ワクワクしながら眠りについた。


次の日の朝ごはんの時にそれは、リリーに伝えられた。

「これからは、僕らをお父さん、お母さん、ルーカスはお兄ちゃんと呼んでくれる?」リリーは大きくうなずき、

「ありがとう。お父さん、お母さん」と呼んだ。

ほっとした顔をジェームズはしていたが、急に真剣な顔になって、

「これでいつでもリリーを守ってやれる。」と呟いた。


リリーが、ルーカスに顔を向けると、僕は?僕は?、という顔をしていたので、ちゃんと、「お兄ちゃんもありがとう。」と言う。


ルーカスは泣きそうになりながら、「絶対にリリーを一人にさせないからな。」

と言った。


エマはエマで、リリーの服やら鞄やら靴やら、用意する物が沢山あって、忙しい、と言いつつ、楽しそうにしていた。



ジェームズは仕事の前に、正式な手続きをしてくると言ってどこかへ出かけて行った。


リリーはその背中を見送りながら、嬉しくて、夢みたいだと思った。


こんな温かいお家でこの先ずっと暮らせたらいいな、とは思っていた。それがまさか、こんなにはやく叶うなんて。



エマとジェームズはリリーが来た日の夜、今後の話をしていたのだが、その一つに、教育を受けさせたい、と言うことがあった。


ルーカスとジェームズがいない間に、

エマが基礎的な教養を確認したのだが、やはりと言うべきか、字を書くことすら出来なかった。


今すぐ、学校に行って、授業を聞くのは難しいと判断し、簡単な基礎は、家でエマが教えることになった。

ルーカスも、お兄さんぶりたいようで、協力的だ。


また、身体の発育については、よく食べよく眠る、を実践していたら、子供だからすぐ成長するだろう、と思われた。

特にリリーは好き嫌いなく、何でもしっかり食べるので、大きくなるだろう。


リリーが何でも食べるので、負けたくないと思うのか、ルーカスも好き嫌いをしなくなった。スムーズにはいかないが、難しい顔をしながら、食べている。


ジェームズは仕事の帰りに、お土産を買ってくるようになった。色とりどりのお菓子やフルーツは見るのも楽しく、リリーは笑顔になった。


リリーの笑顔に家族全員が癒されていた。特にルーカスは、常にリリーの側におり、彼女を大切に扱っていた。

宝物を慈しむような様子に、エマは頼もしさを感じていた。






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