第50話 群雄伝13 銭闘完了
大介がとんでもない条件で契約更改を終える前、ライガース以外の他の球団でも、当然ながら契約更改は行われる。
上杉が順当に年俸を上げていくのは当たり前である。なんだかんだ言って、ルーキーイヤーから三年連続の沢村賞である。
もうこいつが壊れるまで、セのピッチャーは中継ぎかクローザーにいかないと、タイトルは取れないのではないかと思われるほどの超人っぷりである。
そんな上杉は別格としても、契約更改を無事に済ませて、じゃあ飲みますかという、20歳を過ぎた集団が一つ。
「そんじゃ稼ぎ頭が音頭を取って。乾杯」
「「「かんぱ~い」」」
仲が良いのは栄光のワールドカップ制覇組。
ただ今年は、去年に比べると出席者は少ない。
大学組は全員集まったのだが、プロの中で数字を残せなかったのは、なかなか顔を出しづらいのである。
たとえば高校時代、投打において最大の才能と言われた本多は、今年も一軍定着はしなかった。
かといって二軍で無双というわけでもなく、調子の浮き沈みが激しかったのだ。
とは言え一軍にそれなりに出たので、年俸は上がったのだが。
織田、玉縄、吉村、福島のように、順調に年俸を上げた者とは違う。
「まあ、うちは選手層が薄いだけっていう話なんだが」
織田がどうしようもないことを言った。
「どうせなら白石と佐藤と樋口も呼べばよかったかな」
「白石は……いきなり追い抜かれたな」
「あいつはおかしすぎる。ルーキーの三冠王なんて、世界が終わるまで絶対に二度とないな」
「つーか打率とか出塁率とかOPSとか、軒並新記録ってなんなの?」
「トリプルスリーどころか、打率が四割言ってたらトリプルフォーじゃねえか」
完全に洒落にならない。特にセ・リーグでライガースと戦うピッチャーにとっては。
「でも玉縄は案外打たれてなかったよな?」
「上杉さんの次の日とかだと、上杉さんの影響で白石の調子も悪くなるんだよ」
「ああ、なるほどね……」
確かに大介が調子を落としたのは、上杉との対決の後である。
この中で一番の年俸となったのは、二年目にして神奈川の第二のエースとも言われる玉縄である。
そして次が完全に一番センターとなった織田であり、こちらは球団成績が良ければ、もう少し年俸も上がっただろう。
福島などは上がったことは上がったが、上がり幅は少なかった。
そして吉村は、上がったことは上がったが、また小さな故障があった。それでも20登板はいったのだが。
最初は大学の話となる。
正確に言えば、大学に行った佐藤直史の話である。
一年目から完全試合二回を含む、三度のノーヒッター。
監督が途中で替えなければ三回目の完全試合もあったろう。
「なんちゅうか……とらえどころがなか」
西郷も困った顔である。
プロ野球はシーズン終盤に特に盛り上がったが、春先はむしろ大学野球の方が盛り上がったかもしれない。
正確に言えば秋も大学野球は盛り上がったのだが、それ以上にプロ野球が盛り上がったのだ。
ライガースとスターズの、地上波で放送された試合は、上杉が投げた試合で視聴率40%を超えたのだという。
誰もが見たがっていた、ゴジラとウルトラマンの対決を、実際に見れたという感動なのだろう。
ただ、それに巻き込まれたほうはたまらない。
「まあ俺は逃げまくったけどな!」
清々しく吉村は言ったが、おかげで成績は落とさずに済んだ。
大介は、勝負してはいけない存在であると、吉村が一番よく分かっていた。
「まあそれは、うちの球団が一番よく分かったことだろうけどな」
埼玉の高橋が、皮肉を込めて言い放つ。
日本シリーズにおける大介の成績は、凡退が一打席だけであり、ライガースの得点の半分以上を一人のバットで叩き出した。
「あいつは人型最終決戦兵器だな。マジでシーズン中とプレイオフだと、性能が違ってる」
自身はリリーフで大介以外の選手に投げただけだが、高橋の目は死んでいた。
甲子園でも戦ったが、あそこまで無茶苦茶な存在ではなかった。
つまりあれから、さらに進化したわけである。
10段階改造でもされたのだろうか?
そこからは酒が入ったこともあって、愚痴混じりの話となる。
「マジな話、うちは西片さん取ったし大物野手取ったし、来年はAクラス普通に狙えると思う」
今年は五位で終わったレックスであるが、吉村は球団の未来を悲観していない。
金原と豊田は少ないながらも一年目から一軍に先発し、来年あたりはローテにも入ってきそうだ。
それに西片の加入で守備と打力が上がり、援護も増えるだろう。
「うちもまあ、大滝が本格的に一軍には上がってきそうだしな」
玉縄の神奈川は、とにかく大滝という逸材の覚醒が待たれていた。
だがドラフトで即戦力というほどの野手はおらず、来年も投手力で勝ち抜いていくらしい。
タイタンズの本多と小寺がいないので内情は分からないが、案外来年はタイタンズが、復権を果たすのかもしれない。
この場にはライガースの人間はいないが、するとライガースの内情は、けっこう辛いものがあるのかもしれない。
「クロちゃんほぼスタメン定着したけど、西片さんFAで足立さんとかあのあたり大量に引退したしな」
「白石がいくら打っても、相手の得点まで防げるわけじゃないしな」
優勝の後の最下位、プロ野球あるあるである。
パの方は、それほど大きな変動はなさそうだ。
「でもうちの球団も、来年はけっこう行けそうなんだよな」
二年連続で最下位であった千葉であるが、織田が言うにはそれなりに戦力が整いつつあるらしい。
武田が二年目にしてスタメンマスクを半分以上被ったというのもあるが、二軍で育っている人間が多いそうだ。
最後にはグダグダになりながらも、いい気分で店を後にする若手たち。
来年もまた、球場でその姿が活躍するのを見たいものである。
エースはまだ自分の限界を知らない[2.5]+[3.01] 草野猫彦 @ringniring
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