クラシックな主題にプログレッシブな手法

 人を笑わせることが好きな少女と、その幼なじみの少年の小さな恋のお話。
 十代の初々しくも切ない恋の形を描いた、甘酸っぱい恋物語でした。いや「でした」というか「なのにね」というか、なかなかどうしてとんでもない曲者みたいな側面があって、そしてそこが最高に好きです。
 手法や演出の面でゴリゴリに変奏を仕掛けてくるのもそうなんですが、個人的に特に魅力を感じたのはやはり設定の面での奇抜さ鮮烈さ。具体的には説明文で注意されている要素のことなのですけど、なんだか突然場外ホームランを叩き込まれたみたいな感覚があって、でもそれがただのインパクト狙いに終わらず、むしろ物語の根幹そのものだったりするところがたまりません。この設定で本当に真っ当な思春期の恋のお話をやってしまうことの、この得も言われぬ謎の心地よさ。
 そのうえで、というかなんというか、たぶんここがある意味この作品一番の見せ場だと思うのですけど、黒瀬さんが動揺してボロボロになる場面が印象的でした。いきなり読み手に突きつけられるショッキングな映像、すなわち絵的なインパクトも強烈なのですけれど、でもそれ以上に「主人公にまで動揺が伝わっている」ことが表現されているところというか、あの辺の「平気でこっちまで巻き添えにしてくるボロボロ感」にはなかなかすごいものがあります。総じてずいぶんと前衛的な技法の、なのにどこまでも真っ直ぐな青春の物語でした。

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