7話:マスク女子こそ至高であり最強 PART2
「あっ。見つけた……!」
一瞬、気のせいだと瑛助は思った。
けれど、彼女の視線は間違いなく自分自身に向けられている。凛とした大きな瞳が、まるで大事なモノを見つけたかのように
あろうことか、主人を見つけた子犬のように駆け寄ってきている。
蛇に睨まれた蛙もとい、天使に見つめられた
フリーズ状態の瑛助へと、璃海はお構いなしに頭を下げる。
「昨日は本当にありがとうございました」
「……。あ、ああ……。全然気にしないでもらって大丈夫ですよ」
「いえいえっ。私の命を救ってくれたと言っても過言ではありません」
「過言だろ」と瑛助はツッコミたかったが、周囲のギャラリーがそういう雰囲気ではない。
「??? 蒼井さんの大切な用事ってアイツ?」
「命を救ったって言ってたぞ……?」
「
「! ひょっとして……!」
「や、やっぱりそう思う……?」
などなど。
瑛助の感想。
『これはよろしくない……』
バッドタイミングすぎる。
イケメン男子を一蹴したばかりの美少女が、自分に好意を持って話しかけてくる。
傍から見れば、璃海が瑛助に恋心を抱いているようにも見えなくはない。
極めつけだった。
「こ、これを受け取ってください!」
「えっ」
瑛助が声を上げたと同時、ギャラリーたちも声を爆発させてしまう。
璃海が一通の封筒を差し出したのだ。
アルパカや羊などのキャラクターがプリントされた可愛らしいピンクの封筒は、誰がどう見てもラブレター。
しかし、ただ一名だけは手紙の正体を分かっている。
瑛助だ。本人だけは何を差し出されているか直ぐ理解できた。
何故なら、『マスク及び、ジュース代金在中』という文字が、「書道八段ですか?」というくらい美しい行書体で書かれていたから。
ラブレターもとい、ただの500円硬貨。
とはいえ、傍から見れば、やはりラブレターにしか見えない。
「あ、あああああ蒼井嬢が告白したぞ!?」
「号外! 号外だ! 百戦錬磨のマスク女子を、謎の1年生が落としたぞぉぉぉ!」
「蒼井さんと付き合えるとか、アイツはどんなモンスタースペックなんだ!?」
「羨ましい! マスク女子と付き合えるなんて羨ましい!」
などなど。まるで付き合うことが決まったかのような
大前提、告白などされていないのに。
「先輩……。あんた、盛大な勘違いされてますよ」と瑛助は言ってやろうと思った。
けれど、子猫相手にガチ友達申請するような残念ガールには余裕がない。ターゲットをスナイプしようとするゴルゴ13くらい視野が激烈に狭い。
現状打破できるのは己のみと、頭をフル回転させる。
「この場合、受け取ったほうがいいのか? 受け取らないほうがいいのか?」とか、「付き合うように見せたほうがいいのか? 断ったように見せたほうがいいのか?」とか、「どっちを選んだにせよ、地獄を味わうんだろうなぁ……」とかとか。
「……とりあえず場所を変えましょうか」
「???」
瑛助、
ぴったり付いてくる璃海は、ずっと言いたかったのだろう。
「私、蒼井璃海って言います。2年C組で出席番号2番、おうし座のA型ですっ」
璃海の透き通ったパッチリお目々が、「貴方のお名前も教えてもらってもいいですか?」と熱心にも尋ねている。
さすがに、今回ばかりは瑛助も自己紹介せずにはいられない。
「森屋瑛助って言います。1年A組です」
「森屋君、ですか。♪ やっとお名前を知ることができました♪」
璃海がマスク越しからでも分かるくらいの満面な笑顔を咲き誇らせれば、瑛助の心臓は底知らずに高鳴ってしまう。それくらい、マスク女子の素顔を知っているアドバンテージは凄まじいようだ。
互いに名前を教え合っただけ。たったそれだけなのだが、現実を見過ぎている少年にとっては大いなる一歩。
勿論、恥ずかしがり屋なマスク女子にとっても。
これからの2人が、良好な関係を築き上げていくのはご察しのとおり。
入学初日、花粉がツラくてマスクを着けて行った結果、「マスク姿であの可愛さ。
素顔はとんでもなく美少女に違いない」と全校生徒に瞬く間に噂されてしまう。プレッシャーに負けた璃海はマスクを外せなくなってしまう。
そんなクソしょうもない理由で、璃海がマスク女子になったことを瑛助が知るのは、もう少しあとの話。
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【感謝】
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
これにて、『マスク女子』は完結。
現実的な瑛助と、マスク女子な璃海のボーイミーツガールなお話でした!
「こんなご時世だからこそ、マスク女子に萌えたい」というコンセプトで書いた短編、いかがだったでしょうか。
少しでも読者さんの時間を潰せたのなら、僕としましては大満足です!
マスク女子、マスク女子萌えな読者さんに幸あれっ。
ではでは!
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