6話:マスク女子こそ至高であり最強 PART1

 翌朝。本日も高校生を全うすべく、瑛助は学校へと向かっていた。


 現実的な性格故、マスク女子を救ったことに運命ディスティニーを感じるほどピュアではない。

 困っている人がいたから手を差し延べた。ただそれだけ。


 故に、「五月病がまだ抜けないな」とか、「今日は英語の小テストがあったな」とか、「鮎川、貸してるCD持ってきたかな」とか。何気ないことを考えつつ、学校へ向かう生徒の1人として通学風景に溶け込み続ける。

 校舎前、マスクを着けた少女が視界に入るまでは。


 そう、璃海だ。

 今日も今日とて整った顔立ちを布地で隠しており、通りすがる誰もが璃海に注目し続けてしまう。素顔を想像して胸高鳴らせてしまう。

 いくら瑛助がピュアではないとはいえ、無反応は嘘になる。

「自分だけは彼女の素顔を知っている」という事実が、少しだけ優越感や罪悪感といった感情を芽生えさせてしまう。


 璃海が生徒たちに注目されている理由は、他にもある。



「璃海ちゃん、俺と付き合ってくれ」



 璃海の目の前にいる男子生徒が、愛の告白をしている最中だった。

 彼の名は北村きたむら輪舞人ロンド

 ハーフなのか、芸名なのか、親がDQNなのかは分からない。しかし、マスク女子に次ぐ、学校の有名人である。

 輪舞人ロンドは雑誌のモデル、いわば読モ。スラッとした長身に甘いマスクは一級品で、ふんわり無造作パーマに、程良く制服を着崩したコーディネート。「アイドルグループで歌って踊ってます」と言われれば、信じてしまうほどのイケメンっぷり。

 その場にいる生徒たちがザワつくのも無理はない。


「ついに輪舞人ロンドが蒼井嬢に告白したぞ!」

「マスクイーンの不敗神話が今日ココで終わるのか……!?」

「いいなぁ。付き合ったら、蒼井さんの素顔見放題なんだろうなぁ。羨ましすぎる……」

「「「輪舞人ぉ! 目を覚ましてぇぇぇぇぇ~~~!」」」


 などなど。

 誰もが2大ビックスターのカップルが成立するか否か。歴史的瞬間に立ち会おうと、固唾を飲んで見守ってしまう。

 主人公補正とでも言うのだろうか。並みの人間なら、注目の的になれば委縮いしゅくしてしまうものだが、


「俺にだけ、きみの素顔を見せてくれ!」


 くっさいセリフも、イケメン効果で俺TUEEE。

 いつの時代もイケメンは正義。絶対不変のことわり

 イケメンの人気俳優やアイドルであれば、不倫しようがパクられようが芸能界復帰は容易い。イケメンの人気ユーチューバーであれば、不祥事で炎上しようとも1ヶ月後には「そんなことありましたね。HAHAHAHAHA」で笑って許される。

 それが持たざる者(フツメン)と持っている者(イケメン)の違い。


「おおっ!?」と周囲のザワつきがさらに大きくなる。

 輪舞人の告白に応えるかのように、璃海が両耳に手を近づけたから。

 まるで、「貴方の期待に応えたい」とでも言わんばかりに。


 大注目の中、ついに璃海は外す。

 マスクではなく、イヤホンを。


「え……? 私に話しかけてるん、ですか?」

「…………」


 輪舞人ロンド、撃沈。

 イケメン男子のラブコールなど眼中にない。というより、聞いてさえいなかった。

 イケメンは正義。けれど、マスク女子の規格に当てはめてしまえば、無に等しい。

 璃海に背後霊がいるとすれば、「イケメンは正義? いやいやいや。そんなちっぽけな正義振り回されても知らんがな」と鼻で笑っているレベル。

 王の中の王、それが蒼井璃海。


 しかし、輪舞人ロンドにも今まで築き上げてきた地位がある。

 壊れかけの笑顔を浮かべつつ、もう1度アタックチャンス。


「あはは……。えっと、俺と付き合ってほしいな~。なんてさ」

「ごめんなさい」

「…………」

「私、大切な用事があるので、ここを離れられないんです」

「…………。…………おおう」


 輪舞人ロンド、木っ端微塵。

 告白されたとも思われておらず。

 考えれば考えるほど、惨めな気持ちになるだけなので、そのうち輪舞人は考えるのをやめた。

 勝ち組だったはずの男は、静かに校舎へと消えていく。

 まるでブラックホールに吸い込まれる小石のように。


「輪舞人でもマスク女子は落とせないのか……!」

「おめでとう輪舞人! お前が蒼井さんにフラれた100人目の仲間だ!」

「一体、どれだけ蒼井璃海は美人なんだよ! もう気になって一生寝れねぇ!」


 ゴールデンカップルの誕生こそ無かったが、『やはり、我が校の絶対君主は蒼井璃海様』と、ギャラリーたちは大盛り上がり。


 当の本人は、

(この人たちは、さっきから何を盛り上がっているのだろう……?)

 という状態なのだが。


 ギャラリーに溶け込んでいた瑛助も、マスク女子の規格外なスケールにただただ圧倒されるばかり。

 同時に、「自分の感じていた優越感や罪悪感など、ちりに等しいことだった」と、住む世界が違うことも再認識。

 恥ずかしさすら芽生えてくれば、どうしようもない。

 だからこそ瑛助は、「さて。現実、現実」と校舎へと足早に入ろうとする。

 のだが、


「あっ。見つけた……!」


 というマスク女子の言葉に足を止めてしまう。







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マスク女子は、ちょい天然?

マスク女子に萌えた……! という方は、ブックマーク&評価よろしくどーぞ!


明日でラスト!



【お知らせ】

今作品以外にも、


・書籍化予定を発表したばかりの『おっぱい揉みたい~』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893179985


・構って新卒OLちゃんがヒロインの話

https://kakuyomu.jp/works/1177354054913855605


なども公開しています。


どちらも、どうぞよろしく!

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