5話:森屋瑛助は、良くも悪くも現代っ子

 昔のお偉いさんは言った。

「少年よ、大志をいだけ」と。


 対して、森屋瑛助は思う。

「うるさい、すっこんでろ」と。


 別に瑛助は、ポケットの中では中指を突き立てて歩いているような反骨精神たっぷりな性格というわけではない。むしろ争いを好まない部類だ。

 現実的な性格。この表現が瑛助には1番しっくりくる。


 現実的だからこそ、大きな野望を抱こうとはしない。人並みの幸せや何気ない日々を送れたら、それだけで十分だと満足してしまう。

 別に、メジャーリーガーを目指して夢絶たれた過去があるわけでも、プロゲーマー目指して志半こころざしなかばに挫折してしまったような過去もない。

「何もないからこそ、現実的なのだ」ととがめられてしまえば、そうなのかもしれない。


「だからといって咎められる筋合いはない」とも瑛助は思っている。

 こんなご時世、夢を持つ若者のほうが珍しいから。

 夢を持つことは素晴らしいとも本気で思っている。挫折や紆余曲折こそ、青春ド真ん中という意見も否定する気はない。


 とはいえ、ユーチューバーやゲーム実況者だらけだったら、世界は回らない。

 華やかな舞台、きらやかな世界に立てるのは一握りの存在だけ。

 齢15年も生きれば、自分の立ち位置や将来も何となしに理解できてくる。身分相応、手の届く範囲の夢が叶えればそれでいいと、良くも悪くも寛容になってくる。


 以上の考察から、「少年よ、大志をいだけ」と助言されるくらいなら、近所のオッサンに「少年よ、女をけ」と言われたほうが、まだ説得力があるという答えに行き着いてしまう。

 さすがに近所のオッサンのアドバイスを鵜呑みにするほど馬鹿ではないが。

 馬鹿ではないというか、馬鹿になれないというか。


 そんなお年頃、「もうちょっと自分の可能性を信じてみてもいいのでは……?」と心配になる少年が森屋瑛助である。






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本日はもう1話、20時に投稿します。

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