一匹狼

そんな昔の事を思い出しながら湖に映る満月を座り込んでじっと眺めていた。

 

「そろそろ【安全区域】に向かおう…」


と立ち上がり、駆け抜ける。木々の隙間を軽々しく駆け抜けていく……その姿はまるで闇夜を駆ける狼…【BLACK DIRE WOIF】だ。


 【安全区域】とはその名の通り暴力、殺人、窃盗等の行為を禁止している領域である。

もし違反してしまうとそれ相応のペナルティがあり、青い石こと【portal stone】略して『PS』の一ヵ月の使用停止などがいい例である。

『PS』は安全区域又は新世界の入り口で使用可能で新世界からlobbyへ帰還する為の道具であり、それが使用できないとなると例え高価な物を手に入れることが出来たとしても倉庫に保管することが出来ずに他の人間に殺され、強奪されるということが多い。

レンはそこへ向かう為に闇夜を駆け、木々の隙間を疾風の如く通り抜けていく。

そんな中、レンの意識は別の事に集中していた。


 それは……だ。

ほんの一瞬、過去の記憶らしきものを思い出す事がある。

それは眠る時、そして…時に思い出すがすぐに忘れてしまう。例えメモを取っても文字が消える不可解な現象が起きてしまう。

あるのは過去の記憶をという感覚だけ。

それだけしか残らない、半年間ずっと……


———その瞬間、ピシュンッ!と風を切る音がレンに突き刺さる。左肩に視線を向けると矢を受けていた…しかも麻酔矢だ。

人の匂いはしない為、罠だと気付くが指、手首、足首の感覚が消えていき、木の木陰で倒れてしまう。

レンの意識が段々と消えてゆく……


 場所は移り、レンが罠に掛かってしまう10分前……

針葉樹の木々が生い茂る森の中、二つのテントを張り焚火で暖を取りながら丸太に腰掛け、マシュマロを焼く三人組の姿があった。

程よく焼き上げったマシュマロを男二人は不満足そうな表情で口に入れる。

すると大柄で筋肉質で頭から角…鬼の種族の一人が飲み込んだ後に話し始めた。


「肉が食いてぇ……」


そう不満を言う鬼の一人に続くかのように赤髪の青年は口を開く。


「だよなぁ……アギト。俺も肉が食いてぇよ」


……と言う青年の不満にピンク髪の少女は呆れた顔で二人の会話に口を挟む。


「『魔導書探索の出発を記念して!』って言って食糧全部食いつくしたのどこのどいつかしら…?」


「ぐぅの音も出ねぇ」。と彼は不貞腐れるなか……彼女は話題を変える。


「はぁ……そんなことよりもBDWの方が大事よ」

「BDWって何だ?うまいのか?」


質問する鬼に対して赤髪の青年はやれやれといった顔で答える。


「食い物じゃねーよ馬鹿、BDWって言うのは【BLACK DIRE WOIF】の略だ」

「そいつがこんな暗い夜に集団を襲って戦利品やら高価な物を強奪しているらしい」


雑だが……大体の説明をした所で鬼の男が口を挟む。


「あっ?lobbyで見つけてだして新世界に来た瞬間に蜂の巣にしねぇのかよ?」

「誰も正体を知らないからできないのよ」


そうきっぱりと返すと……彼女はそのまま話を続けていく。


「噂じゃ獣人の大男だ。って囁かれてるけど…真実は誰も知らない」

「まっ襲われるわけないだろ…と言いたいところだが可能性が無きにしも非ずだからなぁ……警戒は怠るなよ?」


と赤髪の青年は言うと、焚火の音に耳を澄ませながら夜空を見上げる……


 すると突如、ブザーの音が鳴り響く。突然の音で少女は可愛らしい悲鳴を漏らすが、男二人は動じなかった。


「あ?何だ?」


アギトが首を傾げて、赤髪の青年の方に振り向いて尋ねてくる。


「おっ罠が掛かったぞ!こいつはラッキーだぜ」


どこか満足気な表情で青年は立ち上がり、軽く肩を廻し始めた。


「罠って…仕掛けてたの?」

「ああ、夕暮れ時に三ヶ所な。」


そう雑に答えつつ、テントに近づき……所持品のバックを漁り始めていく。


「鹿か猪かあるいは…熊か?」


バックから散弾銃…Benelli M3 Super 90を取り出すと、その場で12ゲージ弾を込め始めた。


「どっちにしろ肉だってことは変わんねぇ」


と言い生き生きとした様子でアギトは立ち上がるが……


「いやアギト、お前はここに居ろ」

「あ?なんでだよ?二人の方が手っ取り早いだろ?」

「さっきの話、ちゃんと聞いてたか?BDWが現れるかもしれないだろ。カナ一人でここを任せるのは危険だ」


そう強く言う青年に対しアギトは呆れた顔で……


「用心深い野郎だぜ…は。まぁいいけどよぉ?」


アギトは座っていた丸太に腰を下ろした。


「んじゃ行って来る、腹空かして待ってろよ?」


と言い深い森の中へ入ってゆく青年に対し……


「何かあったら連絡してよー」


強く声を伸ばすカナの方を向かずに手を振って返した。


 深い森に入って五分後…森の中は怖いくらいに静寂で梟の鳴き声がより一層不気味に感じる。

手に持った懐中電灯で辺りを見渡し続け、二つ目の罠を見つける。


「ここも起動していないとなると…一番最後か」


と言いながら罠を取り外す。

最初の罠も空回りしていた為、最後の罠に獲物が居ると考え足を速める。

すると突然…懐中電灯の光が消えゆく。


「オイオイ…マジかよぉ」


うんざりしながらBenelli M3 Super 90をしっかりと持ち、暗さに目を慣らしていく。

最後の罠の付近に到着し、罠が起動している事を確認した後に周囲を確認すると…

ふと何かを見つける…生き物の様だが、分からない。

トリガーに指を入れつつ恐る恐る近づいてゆく瞬間、月光が周囲を照らし視界が見やすくなる。

その正体は…?


「……


……この出会いはだったのだろうか? ……それともか。

それはきっと……『』ですら分からない。

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TRUE EYES 天河流星 @tengaryuusei

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