地球の終わりの小さなドラマと、それを眺める無機質な瞳

 崩壊寸前の荒廃した地球で、ひとりの男が未知との遭遇を果たすお話。
 SFです。実を言うと上記の要約は少し語弊のある表現で、正確には「未知がひとりの男との遭遇を果たす」お話です。視点保持者は男の方でなくこの未知さんの方で、つまり「人ならざる何者かの目を通して見た世界」というのがこのお話の最大の持ち味、魅力の根源だと思います。
 というのもこの未知さんの個性というか、存在そのものがすでにして面白い。どうやら人間とはまるで生態の異なる知的生命体で、それを端的に表現できる単語(名称)がありません。ただし特性や特徴はしっかり作中に書き表されており、したがってそれがどういう生き物であるか、ざっくり外側からのイメージを想起すること自体は難しくないのですが。
 この作品、完全にその未知さんの一人称視点によって書かれている、というのが肝で、つまり価値観も哲学も宗教も、それどころか生物としての様態からして異なる生物の、その頭の中を覗く形になるわけです。
 この感覚、掴めるようで掴めない未知さんのものの考え方を、あれこれ想像しながら追いかけていく読書体験。この味わいが実に絶妙で、不思議なわくわく感がありました。その上で、さらに描かれる『ひとりの男』の情動や心情を、この未知さんのフィルターを通して見ることの心地よさ。なんとも説明の難しい、独特の手触りに悶えます。
 巧妙な道具立てと、それにぴったりはまった使い方の光る、物悲しくも優しい終末SFでした。