第11話 だから『』は、彼を信じるしかない。 下
「あー、そうそう。会衆のフリしてるひとたち。たぶんそういう感じだよ」
「そういう感じって、どういう感じなの」
こういうかんじーと、慧華が身振り手振りで何気なくシトの乳を揉んだ、『』はちょっとだけ見ていて恥ずかしくなった。
そして少し心当たりを感じて自分も気を付けようと思った。
「あの会衆の人たち……んー、会衆って言っていいのかな、見ている世界が違うの」
「見てる世界が違う、っていう事?」
『』は慧華の口調が変わったことを感じ取る。ああ、本題が来ると。
慧華の言っている会衆もどきというのはだいたい目星がつく、おそらく愛殿の会衆だろう。愛殿の、というが、彼は所属していない。もうとっくの昔に滅んでいたはずの会衆である。
会衆全てを把握している会衆庁でさえ把握しきれていない。まるで隠里のように現れては消える。
そういう存在なのではなく、そうさせられている。といったほうが良いだろう。
歪みを矯正する能力者の集まりである会衆。というよりは、ただ歪みに飲み込まれた人間の住む集落のようなもの。
「ん、会衆庁から依頼受けてね。わらしが出した人たち全滅、というか……帰ってこなかった」
「GPSのデータはあの会衆に留まってるです。あと、意識もあって、けど、帰ってこないです」
「信じたくないんだけど、どうもね、向こうの人になっちゃったみたいなの」
おっかしいよ、しんじたくないよー、と、ゆるゆるな能無し喋りに戻った慧華はシトにもたれかかり吸い飲みを請求する。赤子のように飲むと眠そうに目を擦った。
「いっそ、かんけいしゃぜんいんころそうか? と思ったけど……『』ちゃんのおともだちもいる」
「いーよ、どうでも」
「どうでもいいの?」
「そもそも、僕が彼をどうこうする権利はないし、彼は僕の所有物じゃない」
「でも、ともだちだよね?」
「友達なだけだよ、友達だからこそ、彼の望んでいないことはできない」
『』はいつもよりはっきりした声ではっきりした意思を持ってそういった。慧華やシトに口を出されないように。はっきりした意思で。揺れる心に鞭を入れる。
「薄気味悪いよ、人間を能力者だと偽って歪みの発生した場所に放り込むなんて。なにがしたいのかわからない」
うん。と慧華が頷いた。
「そんなのぜんぜん、だれも 幸せ にならないのに」
「で、慧華は僕にそれを討伐してほしいってこと?」
金色の光が数度瞬き、肯定した。
友達は友達で、友達でしかない。だから、いくら大切でもどうにもならない。それ以上を侵してしまえば、
だから『』は、彼を信じるしかない。
俺だけの神様、そう思っていた女の子は世界を救う人柱でした。 無敵之人 @ichiikun_ginjyou
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