ワクワクお泊まり女子会?

「……で? ひなは渡瀬わたらせ(仮名)のこと、どう思ってんだよ」

「ん? 友だち」


 わたしの即答に、目を丸くする中学時代からの友人、大槻おおつき美亜みあ(仮名)ちゃん。でもね、それが、わたしの率直な答なんだよ。

 美亜ちゃんの右隣に座る、高校に入学してからできた友人の、熊谷くまがい真琴まこと(仮名)ちゃんは、何故か頭を抱え、その対面に座るもうひとり、小鳥遊たかなし莉緒りお(仮名)ちゃんは大笑いしていた。


 時は、全員で高校二年生に無事進級し、新学期が始まろうかという四月最初の土曜日。

 場所は、わたしのうち。わたしの部屋。

 当初の目的は、新学年での勉強対策をしよう……だったはず。これは、美亜ちゃんが提案したんだ。で、同時に誰かのうちにお泊まりして女子会にしようということになっていた。

 これも、三月に、駅前で配布してた無料の感染症の検査キットをもらったからで、全員が時期を合わせて申し込んだのだ。お泊まりするには、全員が陰性であることと、当日無理をしてまで集まらないことが条件だった。


 そんな障害をクリアして、現在、テーブルを真ん中にして、三人に尋問を受けている格好のわたし。部屋の主なのに、何故か正座。せぬ……。


「時々、渡瀬にとりついてるよな? ひなったら」

「渡瀬くんだけじゃないよ。美亜ちゃんにだって、普段からしてるし? ねぇ?」

「あぁ……、真琴はそういうことを言ってるんじゃないだろ? わかれよ」

「解んないもん!」


 真琴ちゃんの疑問に、わたしが答えて、美亜ちゃんに同意を求め、その美亜ちゃんから、答えになってないと睨まれる。真琴ちゃんは美亜ちゃんに向かって、大きく、コクコクと頷いている。


「ひなちゃんはさぁ、渡瀬くんと、友だち以上になりたいって思ってないの?」

「そこがよくわかんないんだよね。まずは、普通に友だち……がほしいんだ。莉緒ちゃんたちみたいな……」

「そっかぁ、そしたら、今のひなちゃんは、渡瀬くんにじゃれついてるだけかぁ……。でもねぇ、男女の間に友情は成立しない……って、昔から言われてるよ。わたしもそれが正論だって思ってるし」

 


「浅葱は、そんなことして、恥ずかしくはないのか?」

「渡瀬くんは恥ずかしそうだね? 渡瀬くんのためだから我慢しようね?」

「俺のため?」

「そうだよ! せっかくのホワイトデーに妹と映画……なんて思われたら、カッコつかないでしょ? こうしてれば、ちっさいわたしでも、彼女くらいには見えるんじゃないかな?」


 その後、先月、ふたりで出かけた時のことについて、口を割らされた。こんな会話の内容だったことに、三人は一喜一憂している。

 そして、またしても、美亜ちゃんは呆れたという表情を浮かべ、真琴ちゃんは頭を抱えてる。そして、莉緒ちゃんは、……今度は爆笑していた。


「ひな? それ、渡瀬に言っちゃったの?」

「うん」

「渡瀬にとってはよかったんじゃない? ひなが自分から、腕、組んでくれたってことだろ?」

「でも、彼女だって思ってんのは渡瀬だけだぜ?」


 ここでも、美亜ちゃんの追及に、わたしが答え、真琴ちゃんが、ひとりで納得したところに、再び美亜ちゃんが、そうじゃない……とツッコミを入れている。


「ひなちゃんのそれ、ワザとやってんのかと思ったら違うのかぁ〜。渡瀬くんも苦労するね〜。ちょっとかわいそうになってきた。でも、まぁ、スタート直後に、彼は盛大なマイナス評価を、ひなちゃんからくらってるからね〜。仕方ないかなぁ……?」

「だから、わたしがワザとやってるところもあるんだよ。わたしって、悪い女なのだ」

「ひなちゃんには似合わないよ、その顔。やめときなって」


 莉緒ちゃんの同情気味の言葉に、反論するわたし。悪戯心いたずらごころが芽生えてたことも告白する。冬の、抱き抱えられての保健室直行の反動だ。


「あれだって、恥ずかしかったんだよ!」

「それだけ、渡瀬くんは心配したんだと思うよ。条件反射的な行動の割には、冷静な対応だったんじゃない?」


 莉緒ちゃんの、渡瀬くんの評価が意外と高いことに驚いた。あれ、もしかして……、莉緒さん?

 そんなことを考えてるのが、わたしの表情に出てたんだろうか、莉緒ちゃんが笑った。


「心配しなくてもんないよ! 渡瀬くんは、わたしの好みではないし」

「心配なんてしてないよ」

「そう? まぁ、ここにいる三人は、いつでもひなちゃんの味方だからさ! なんかあったら相談しなよ」

「うん、ありがと? でもさぁ、この尋問みたいの、相談のていなの?」


 莉緒ちゃんへの、わたしからのお礼が疑問系になったのも仕方のないことだと思う。残ったふたり、美亜ちゃんに真琴ちゃんは、いつまでもニヤニヤしてる。いったい、なにを企んでるんだ? 他人ひと恋話こいばな? を、横で聞いてて盛り上がれるんだから、きっと楽しいんだろうな。

 そんなニヤニヤが、ちょっと癪に障ったので。


「美亜ちゃんたち、晩ご飯、抜くよ」


 美亜ちゃんの表情が、明らかに引き締まった。



 その様子に、わたしの『勝ち』を見つけたところで、夕飯の支度を美亜ちゃんにも手伝わせる。それが、うちに来たときのルールだ。

 わたしひとりで用意するのもできなくはないけど、それは、なにか違うと思うし。

 真琴ちゃんと莉緒ちゃんは、初参戦なので仕方ない。今日はお客さま待遇だけど、次からは手伝ってもらうよ。そう言ったら、ふたり揃って、わたしと美亜ちゃんのあとをついてきた。


「部屋で待ってりゃいいのに」


 なぜか美亜ちゃんが頬を膨らませてこう言った。そして執拗に、ついてきたふたりを追い払おうとしている。


「美亜ちゃんは気にしなくていいんだよ〜。わたしは、ひなちゃんの手際を見にきただけだし。ねぇ?」

「わたしは、ひなが美亜にどこまでを求めてるのかを見て次回の参考にする」


 ふたりは、それぞれ、こう言ったあと、互いに顔を見合わせて笑った。ふたりとも、ニヤニヤして、それはとても悪い子の顔だ。

 ふたりにとって、美亜ちゃんは同級生であるし、同性でもあるし、家事、特に料理の腕前がどれほどのものかは気になるのだろう。

 わたしも自発的に料理を始めたのは、高校に進学してからだから、偉そうなことは言えないけど。


 でもね、料理ってやらなきゃできるようにならないよ。

 美亜ちゃんは、わたしのお父さんに、自分の手料理を振る舞う野望が、未だにあるんだそうだ。まだ、諦めてなかったのか?

 だけどね、わたしの、料理を含めた家事の師はお父さんだということに、美亜ちゃんは気づいているのだろうか? 家事のスキルも、年齢差も、超えなきゃいけないハードルは、とんでもないほどに高いと思うよ。


 この夜は、ふたりに見られ続けて緊張しどおしの美亜ちゃんも、なんとかがんばった。

 調理の最中に、お父さんが帰宅して、更に緊張した美亜ちゃんが見ものだった。



 あなたたち、勉強するって、うちに集まったんじゃなかったのかい?

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あさぎ色 浅葱 ひな @asagihina

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