どきどきホワイトデー?
学年末のテストも終わったというのに、何故、わたしの通う高校は、未だに普通に授業があるのだろう。今日は土曜日だってのに。朝は本降りの雨だったというのに。
まぁ、帰りには、雨も小降りになってて、半日で、大雨の中を強制的に下校させられなかったので許すとしよう。
そんな贅沢な不満を、友人たちと溢しながら、帰る支度をしている時、わたしの右隣から名前を呼ばれた。その声に振り向くと、そこには、何やら深妙な顔をした
「なに?」
「…………」
う〜ん、声が小さくて、殆ど聞き取れない。
ちょっとだけ顔を近づけるわたし。すると、渡瀬くんは、後ろに体を引いていくので、結果、距離が変わらない。コントやってるわけじゃないんだよ、もぉっ!
わたしの前の席に座る
意を決したわたし、自分が座ったままで、その椅子の向きを変えて、渡瀬くんの目の前まで、ドンッと踏み込んだ。そのまま両腕捕まえて、無理やり動きを封じてやった。
「で……? なに?」
ここまでが、昨日、三月十三日のお話。
結局は、「明日、映画見に行かない? ……ふたりで」だった。
そして翌日、三月十四日、ホワイトデー当日。
改札の外に、渡瀬くんを見つけた。向こうも、わたしに気づいたみたいだ。
「ごめん、遅くなったみたいで」
「俺が、早く着きすぎちゃっただけだから」
そんなことを言う渡瀬くんは、相変わらず、尻尾を振ってる大きなワンコみたいだった。
「そこは、嘘でも、『俺も今、来たところ』……って言うんだよ。それが気遣いってもんだよ」
「そっかぁ、覚えとく」
そんな会話の後、ふたりして電車で向かった先は、県の中心地。そこには、国の機関や大病院、アリーナなんかがあったりして……。それに隣接する、大きな商業施設の中にあるシネコンが今日の目的地だった。
目的地に向かう電車の中で、渡瀬くんが、今日に至った経緯を話してくれた。
「親がさぁ、先月、
「う〜ん、あげたのは、みんなと
「それはちょっと残念だけど。親から見たら、あのチョコ、スッゲー、インパクトがあったわけよ。
「う〜ん、わたしたち、まだつきあってるわけじゃないけどね」
で、ホワイトデーのこの日、渡瀬くんからバレンタインデーのお礼だって言って、ふたりで映画を見に来たわけだ。
わたしたちは、駅の改札を抜け、大きな商業施設の中にあるシネコンに向かう。その距離は、ほんの数分にもかかわらず、そこで、わたしの悪戯ごころが、顔を見せ始めた。
この時のわたし、たぶん、相当悪い子の顔……、してたと思う。
街中の商業施設の更に真ん中で、渡瀬くんの腕に、突然、わたしの腕を、絡ませて……みた。
急激に動きがぎこちなくなる渡瀬くん。わざとらしく上目遣いに見上げた先のその顔は、あまりにも
でもさ、わたし……、腕、組んだだけだよ。それに、ぐいぐい押しつけるほどの胸は、わたしにはないんだし……。そこに、照れる要素はそれほどないと思うんだ。
寧ろ、先日、みんなの前で横抱きにされたわたしのほうが恥ずかしかったんだからね。
「浅葱は、そんなことして、恥ずかしくはないのか?」
「渡瀬くんは恥ずかしそうだね? 渡瀬くんのためだから我慢しようね?」
「俺のため?」
「そうだよ! せっかくのホワイトデーに妹と映画……なんて思われたら、カッコつかないでしょ? こうしてれば、
渡瀬くんが、ちょっとだけ肩を落としたように見えた。
その先は、わたしが渡瀬くんを連れ回す結果になった。だって、渡瀬くんたら、隣でわたしが見上げたら目を逸らすし……。話しかけたら口籠っちゃうし……。手を繋げば固まるし……。なに、そんなに緊張してるんだよ。クラスのムードメーカーを自称してたのはキミじゃないか。
この時、ふたりで見た映画は、別の意味でおもしろかった。
拗らせて歪んだ『シンジ君』が、目覚めた今でもやっぱりこんなで、頼りなさは倍増だった。そんな、使徒と戦ってたSF(だよね?)作品の最新版。
今日の渡瀬くんは、なんか、この映画の主人公と重なって……。
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