04:夏の終わりに
千紘、俺思い出した。お前を避けてた中学の頃のこと。
なんで避けてたんだろう、途中からずっと、意地みたいなものだった。
忘れてたんだ、たったひとつ、大事なことがあったのに。
あれは、冬の終業式の日だったっけ。俺は年末と盆は他県のおふくろの田舎に帰るのが習慣だったから、その日年内千紘に会えるのが最後だったんだと思う。
「僕、省吾のこと大好きだよ」
お前が、どんな気持ちで言ったのかは、もう知ることが出来なくなっちまったな。
クリスマスプレゼントと一緒にもらったその言葉はさ、俺の中ですごく大きかったんだぜ。
うれしくて、伝えたよな、「俺も」って。
ちゃんと、お前には伝わってたかな、千紘。
どうしようもないよな、恥ずかしくて、耐えられなくなったんだ。
知らん顔してたかった。無かったことにしてしまおうなんて。
それから春。
別のクラスになって、俺は安堵して、当然のように距離は広がっていった。
お前のことが好きだったことは、忘れてないよ。
だけど、ずっと忘れてた、ずっと無かったことにしてた。
お前だってちゃんと、答えをくれていたってこと。
遅くなってごめんな。ちゃんと、顔見て言いたかった。
俺はずっとここに居るから、来年も、また帰って来いよ。
待ってる。
青海が聴こえる 紺野しぐれ @pipopapo
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