幕間 アヤの過去
あたしは小学校に入った頃、イジメを受けていた。
理由は簡単。普通と違うから。
人は異物を排除するのにためらわない生き物なのよね。
弱いながらも『異能』が使えてしまったことは、子供時代のあたしにとって最悪の結果しかもたらさなかった。
能力が制御できていなかったことで、あたしの考えがたまに漏れて伝わる。
手も触れていないのにあたしが触ろうとした物が動く。
こんなことが重なるとあたしはお化け女と呼ばれるようになった。
学校にいる時は先生の目があるからイジメも少ない。
低学年の小学生なんて学校内でやればすぐにイジメは発覚する。
隠すなんてことができないんだからね。
あたしも『異能』が異質でありイジメの種になるなんてこと、考えてもいなかった。
誰もが普通に使える物だと思っていた。
この考えも迂闊だったけどそれを教えてくれる人もいなかった。
心配をかけたくないから、『異能』のことは母親には相談できずにいた。
母はあたしの『異能』のことは気付いているのかな?
たまに漏れ出てたんだからわかるんだろうけど、直接それについて話したことはないから未だにそれはわからない。
当時は竹山市ではなく新島市で暮らしていたあたしは学校からの帰路、毎日のようにイジメられていた。
「やーい、お化け〜」
「貞子が来たぞ〜! 呪われるぜ、逃げろ〜」
当時は前髪で目を隠してた。
同級生の異物を見るような目が怖かった。
だから前髪は外の世界とを隔絶する壁として伸ばしてた。
怖いものも、見えないと怖くない。
自分の目を塞いで恐怖を紛らわせようとする幼稚な心理だったんじゃないかな。
今から考えるとなんて幼稚なイジメかと思う。
でもあたしの心は悲鳴を上げていた。
そりゃ幼い時にこんな悪意を受けるなんてキツイわよね。
この程度なら今なら笑い飛ばせるようなことだけど、その日は違った。
「兄ちゃん、こいつがオレの言ってた変な奴だよ!」
よくイジメてくるガキ大将的な男の子が兄を連れてきた。
記憶の姿から考えると小学校高学年か中学生くらいだ。
「へぇ、本当に貞子みたいな見た目してんだな」
怖い。思い出してもこの時は怖いという感情しかなかった。
同級生よりもかなり身体も大きい。
当時のあたしには大人とそう変わらないように見えた。
今なら子供に見えるかもだけど小学生低学年からすれば、ね?
「ちょっとこっち来いよ」
そのいじめっ子の兄はあたしの腕を引っ張って路地裏に連れて行った。
当時のあたしからすると抗えない腕力。
抵抗も虚しく、路地裏に連れて行かれた。
新島市は都会とはいえ、通学路に使っていた道はあまり人通りが多くない。
運悪くあたしは人目に付かず連れ込まれてしまった。
「ほら、服脱げよ」
「えっ?」
いきなり何を言われたかわからなかった。
「俺がお前のどこが変か調べてやるから脱げって言ってるんだよ」
下卑たニヤけ顔でいじめっ子の兄はそう言った。
今ならわかるけど、こいつロリコンね。
10代前半の男とはいえ、幼女に欲情して実行するとか人としてどうかしてると思う。
「い、いやっ!!」
「兄ちゃんが見てくれるってんだから大人しく脱げよ~」
人通りもあまりない寂れた雑居ビルの隙間の裏路地、誰も咎めることはなかった。
あたしも恐怖が大きすぎて声を出すことができなかったのだ。
(助けて!!!!)
あたしは心の中で叫んだ。
彼らは抵抗するあたしを押さえつけ、スカートをめくって下着に手をかけて下ろそうとしていた。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!)
何が起こるのかわからなくて抵抗してもびくともしない。ただ震えるしかできなかった。
その時だった。彼が現れたのは。
「とおっ!!」
ガッ、という鈍い音と共にいじめっ子の兄の顔に膝蹴りが入ったのだ。
「うがっ」
あたしと同い年くらいの男の子がいじめっ子の兄を攻撃したことはわかった。その男の子はあたしを庇うように立ちふさがってくれた。
「お前ら何してんの? 女の子にはやさしくしなきゃだめっしょ」
「いってぇなぁ、いきなり何だお前? 関係ないだろ」
「助けてって声がめちゃ聞こえたからさぁ。つい」
声に出なかった声。あたしがいじめられる原因になった、考えが漏れるという人とは違う何かの力。
彼に届いたのはあたしの『異能』であるテレパシーだった。
「こら! 修二! どこ行ったの!?」
「あ、やべ。母ちゃんだ」
男の子はそう言って慌てだした。
いじめっ子の兄弟も既にその声を聞いて慌てふためいて逃げていった。
今思うとさすがに悪いことしていた自覚はあったのかもね。
「ありがと……シュウジ君? っていうの?」
「あ、うん。さっきのやつを、けったのだまっててくれない? 人をなぐってはいけませんって母ちゃんにおこられるからさ」
「うん……ほんとありがと」
「いいって。あ、顔がちょっとよごれてるよ」
彼はそう言ってハンカチで拭いてくれた。そうしてるうちにその子の母親らしき人が現れた。
「修二、いきなり走り出してどこかに行くの辞めなさいって言ってるでしょ! で、その子はどうしたの?」
「なんかいじわるされてたから助けた。顔がちょっとよごれてたけどケガしてなさそうだよ」
彼の母親らしき人は微笑みながらあたしに声をかけてくれた。優しそうな人だ。
「大丈夫? 立てるかしら? ちょっと私にお話聞かせてくれるかな?」
シュウジは彼のお母さんの後ろから口に人差し指をあてて、しーっ! という黙っててのジェスチャーをしている。
うん、もちろん恩人を売るようなことはしない。
そこからはシュウジの膝蹴り以外は正直に話した。もうあたしも限界だったから。
誰かに助けて欲しかったんだ。これ以上何をされるかわからないっていう恐怖から逃げたかった。
色々あって、シュウジのお母さんは菊川さんを紹介してくれた。
あたしの師匠となる人。最初は身体も大きくて怖そうと思ったけど、言葉は少なくても優しい人だとすぐわかった。
そしてあたしは学校を転校することになった。さすがにね。
それでも小学校卒業までは新島市に住んでたけど、卒業と共に家族で竹山市に引っ越すこととなった。
あれから学校の屋上で呼び出すまではシュウジと挨拶以外で直接話すことは一度もなかった。
中学校でシュウジと同じ学校にだったけどね。
よく考えたらあたし、あの時はシュウジに名乗ってなかったのよね。この時のこと、覚えているかしら?
なんとなく今まで聞くことができなかったけど……少しだけ気になる。
でもシュウジが助けてくれたことは一生忘れない。
多分あそこで出会わなかったら今のあたしはないと思う。
あたしは彼のこと、間違いなく好きなんだと思う。
どうしようもなかったピンチを助けてくれたヒーローなのだもの。
今ではあたしの方が少し強いけど、そんなの関係ない。
バレンタインにあげるチョコを作ってたら少し思い出しちゃった。
そだ、メッセージ入れとこっかな。
好きだなんて書けないけど、少しだけの想いをこめて。
花柄の便箋に書いて4つ折りにして、と。
彼、甘いもの好きだから喜んでくれるといいな。
ラッピングが終わって窓の外を見ると少しだけ雪が舞っていた。
竹山市の大雪は嫌だけど、今日みたいな真っ白な世界に降ってくる穏やかな雪は幻想的で好き。
人類が滅びる可能性があるだとか予言の話もあるし、未来には不安があるしどうなるかなんてわからないけどシュウジとなら何とかできる。
そんな気がする。
――
あとがき
アヤはシュウジと接点があったというお話でした。19話の前日にアヤが思い出していたことです。
前々から考えてはいたのですが長らく続きが書けずにいた設定を形にしてみました。この話を書くために性的表現タグを加えました。
これから続きが書けるかはわかりませんがまずはこれだけでも、ということで。
『異能』を覚醒した俺が戦いに巻き込まれることになった話 枚岡孝幸 @hiraoka_taka
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