第8話 これは確実に仕留めないとな

 この異世界ヴィーマーに転移して一日が経った。


 夜寝て次に目覚めたら俺が艦獄長ダンジョンマスターになって異世界に転移したなんて全部夢だった、なんてことを期待していたのだが、生憎と俺が艦獄長となったのも異世界に転移したのも全て現実だったようだ。


 食糧はアルテー達から分けてもらったのだが干し肉に固いパンのような保存食ばかりで、味は不味くはなかったが現代の仁本の食事に馴れた俺には物足りなかった。


 アレネスの戦女達は、代価を受けとる代わりにモンスターや海賊といった外敵から守る契約をした島々を見て回る巡回のための航海と、離れた海まで出て怪しい不審船や害になりそうなモンスターを探して見つけたら襲う襲撃のための航海を常に行っている。アルテー達はその襲撃のための航海を終えて拠点の島へ帰る途中で、俺の艦獄ダンジョンシップで船足が速くなったが島につくのはあと十日程かかるらしい。


 あー……。アルテー達には悪いけど干し肉じゃないマトモな肉が食べたいな。ステーキ食いたいなー……。


 そんな俺の気持ちが通じたのか、俺達の前に「ソレ」は突然現れた。


「……ん? 何だアレ?」


 艦獄の進路上の方向にいきなり大きな水柱が立ち上ぼり、俺が何事かと思っていると、アルテーを初めとする艦獄に乗っていた戦女達が歓声を上げた。


「『蛇』だ!」


「やったぁ! お肉が食べれる!」


「アイツはすぐにやって来る! 武器を構えろ!」


 ……ええっ? 一体何事?


 喜びながら自分の武器を持ち戦いの準備をする戦女達に俺が戸惑っていると、抜き身の大剣を担いだアルテーが説明してくれた。


「リュウトは知らないのか。あれは『大海蛇』というモンスターだ。船の船員や海岸の動物を食べる凶暴なモンスターだが、その肉は美味い。それに大海蛇は小さいのでも二十メートルはあるから全員が腹一杯食べられる」


 あー、なるほど? 皆も干し肉に固いパンの保存食には飽きていたのね? だから新鮮な肉が現れてこうして喜んでいると?


 人間も食べるモンスターを前にして恐れるどころか喜ぶアレネスの戦女は凄いと思うが、新鮮な肉が食べられるかもしれないというのは俺としても嬉しい。……これは確実に仕留めないとな。


「アルテー。悪いけど皆に艦獄の中に入るよう伝えてくれないか?」


「ん? 何故だ? 大海蛇は恐らくもうすぐここへやって来るぞ。せっかくの獲物から逃げろというのか?」


 俺の言葉にアルテーは首を傾げて聞いてくるが、それに対して俺は首を横に振って答えた。


「まさか。せっかくの獲物だから絶対に逃げられない、こちらに有利な場所に誘い込むんだよ」


 アルテーにそう言った俺は艦獄に意識を向けた。


 不思議な気分だ。昨日は艦獄の動かしかたなんて全く分からなかったのに、今では艦獄を動かすにはどうしたらいいのか自然と分かる。


「艦獄。あの大海蛇を吸い込め!」


『………!』


 艦獄の船首はまるで生きているドラゴンのような形をしていて、俺が命令するとドラゴンの口が開いて大きく空気を吸い始めた。そしてしばらくすると前方の海から全長が三十メートル近くありそうな巨大な蛇、大海蛇が見えない力でこちらへ引き寄せられ、最後には船首のドラゴンの口の中へ飲み込まれていった。


 艦獄の船首のドラゴンが大海蛇を飲み込んだ光景にアレネスの戦女達は全員動きを止め、アルテーが驚いた表情でこちらに話しかけてきた。


「リュウト……? お前、一体何をしたんだ?」


「大海蛇を艦獄の中のダンジョンに招き入れただけだよ」


 艦獄のダンジョンは魔宝を守るための「砦」であり、同時に艦獄長の力を最大限に発揮して外敵を確実に殺すための「処刑場」でもある。そのため艦獄には外敵を確実に倒すため、こちらから外敵をダンジョンに招き寄せる機能があって、俺はそれを使ったというわけだ。


「さあ、それじゃあ早く行こうか。早くしないと大海蛇が『アイツら』に食われるかもしれない」


 俺が艦獄の中に向かおうとすると、アルテーはこちらに笑みを向けて呟いた。


「いいな……。この船。そしてこの船を操るお前も……」


「? アルテー?」


「なあ、リュウト? 私と子作りをしてみないか?」


 ファッ!? い、いきなり何を言ってるの、この人!?

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