静かで壮大な雰囲気の本格SF

 病院に入院するひとりの年老いた女性と、それを看護・治療する人たちの記録と日々の情景。
 SFです。しっとりとした静謐な風景の向こうに、少しずつ大きな物語が立ち上がってくるかのような、太い芯を感じさせてくれる作品でした。
 困ったのはお話の内容に触れづらいところで、レビューとして言いたいことはいっぱいあるのに、でもどこを切り取ってもネタバレになるような気がします。
 なので非常にざっくりふんわりした言葉で申し訳ないのですが、とにかく空気感の美しい物語です。お話の設定や舞台そのものは骨太なSFで、しかしその壮大な世界を通じて描かれているのは、あくまで人間のありようや生き方そのもの。大きな世界から小さな個へと接続していく、その流れが味わい深い作品でした。