機械仕掛けの兵士ゾルタンと少女シーカの二人が大型バイクに乗って世界を回るほのぼのとした、ロード・ムービー形式から物語は始まります。
ポストアポカリプスものやSFものに馴染みのない方でもとっつきやすい丁寧な文章運びなので、敬遠せずにご覧になって頂けると。
彼らが旅をするのは全てが壊れた世界。
灰燼に帰した街を抜け、遊園地跡を抜け…。
残っているのは、ロボットばかり。壊れたピエロ、ミュージカルロボット、異常をきたした用済みの兵器達。
天衣無縫なシーカと、それに振り回されるちょっと疲れた感じの機械仕掛けの兵士ゾルタンの微笑ましい雰囲気に癒されながら進む旅。
ですが、物語の真骨頂はそこからです。
微笑ましさに溢れた旅の裏に潜む切ない秘密。
ゾルタンの目的は、先を往く不穏な影は、所々に残る不自然な痕跡は。
この世界に隠された秘密と、ゾルタンの悲しい過去と、狂おしいまでの執念。
切ない彼の覚悟が報われるのか、報われないのか。
全ての秘密が明らかになった時、自分はボロボロと泣いてしまいました。
ですがそれは、最終話で昇華されます。
その体験をぜひ味わってほしい。
どこまでも荒れ果て、崩壊した世界。
しかしそれが当然であるかのように、屈託なく、天真爛漫に生きる少女、シーカ。
その少女を何よりも大切に守り続ける兵器であり、兵士でもあるゾルタン。
死と瓦礫が埋め尽くされた街。
朽ち果て、笑い声が消えた遊園地。
聴く者が居ないままに音楽を吐き出し続けるミュージカルロボット。
そして、遊弋するかつての兵器達。
我々からすれば非日常的な毎日が、彼らにとっての日常。
この日常を兵士であり、兵器であるゾルタンと、少女シーカが
お互いを思いやり、支え合い、寄り添いながら、逞しく生き抜いていく。
なぜ、ゾルタンは少女を守り続けるのか。
彼らが目指す場所に、何があるのか。
そこに辿り着いたら、何が変わるのか。
そして少女シーカは何故、終焉した世界まで生き延びられたのか。
二人の日常が描かれたこの作品を読了して数ヵ月が経つが
この物語がいつまでも心から離れない。
二人の様子から、眼を離せなかった。
無機質で冷たい灰色の世界と、彼らが織りなす儚くも優しい色彩が
強烈なコントラストになって、心に焼き付いているのだと思う。
是非あなたも、二人の行く末を見て欲しい。