第15話 『麗氷姫』と二人の取り巻き 2



(うぉぉぉぉ、負けてたまるかぁぁぁぁ!)



 俺は負けじと思い切り力を入れるも手が離れない。それどころかますます強くなっているような気がする。あだだだだだだだだだだだだ!!


 最近は柔軟体操の他に軽く筋トレもしているのだがこの怪力は凄まじい。某霊長類最強女子レスリング選手にも負けず劣らずではないだろうか。いや知らんけども。



「アンタ、確かこの学園に編入してきた御子柴ってヤツ? しかもここ最近、霊峰院から放課後に勉強や運動を見て貰っているっていう?」

「あ、はいそうです御子柴渉です! いつも霊峰院さんと一緒にいる姿を遠くから眺めてたけどこうして会話するのは初めてですよねー……! それはそうと是非とも肩から両手をどけてくれると嬉しいんですけどぉ!?」

「あ、ごめん。逃げようとするからついうっかり」

「はわ……っ!? す、すみません……!!」



 俺が慌てて声を掛けると、ようやくメリィッッッ!!!と力が込められていた両肩からようやく手が離れた。そして悶える。


 俺の左右の肩をそれぞれ片手ずつ掴んでいた二人だったが力が半端ない。この二人の握力、もしかしてゴ……無自覚系怪力女子だろうか。もうリンゴなんて片手で簡単に潰せそうである。思わず涙目になった俺は未だにジンジンと痛みが走る肩を手で押さえながらも身体を二人の方へと向けた。



「………………」

「………………うぅ」



 そこにいるのは二人の美少女。


 一人は艶やかな黒髪をツインテールに結んで鋭い目つきをしているツルペタ体型の少女。そしてもう一人はショートボブの茶色な髪のてっぺんにリボン風のカチューシャを付けた、胸が大きくておどおどした様子の少女だった。


 流石霊峰院の取り巻きを務めるだけあって二人とも綺麗で可愛い。両手に花というやつだろうか。そう考えていると、黒髪ツインテールの少女が俺を訝しげに見つめてきた。確かこの子が未那だった筈。となるともう片方の少女が綾子なのだろう。


 やがて未那が口を開いた。



「……ねぇ、アンタもしかしてさっきの見た? てか見たわよね?」

「え、えーと……、な、なんのことでしょう……?」

「と、とぼけないで下さい……。それならどうして物陰に隠れていた挙句あげく、逃げようとしたんですか……? そもそも何も用事が無いのにこんな場所に生徒が来るわけないじゃないですか……!」

「うぐ……ッ!」



 おどおどした様子の綾子の正論に、思わず声を漏らしながらさっと顔をそむけてしまう。こそこそと隠れて聞いていたことによる罪悪感を感じていた俺だったが、ここまでくれば正直に話すしかないだろう。


 頭をガシガシと掻きながら向き直る。



「あー、わかったよ。正直に言う……ごめん、見てた」

「……やっぱり」

「うぅ……っ、ど、どどどうしよう……!? 未那ちゃん……!?」

「見てた上で訊くけど、どうして二人は霊峰院さんの取り巻きをしてお金を貰っていたんだ? ……もしかして、霊峰院さんがお金を渡すからってその役目を二人に無理矢理―――」

「―――ち、違いますッッッ!!!!!」



 俺がその言葉を言いかけると、途端に綾子さんが激昂したように叫ぶ。先程までのおどおどした雰囲気は消え去り、垂れ目な瞳を見開いた姿からはとても必死な様子が伝わってきた。


 まずは可能性としてはあり得ない予想から話してみようと思い口にしてみたのだが、思いのほか強い否定を貰ってしまったことに俺は面食らってしまう。


 彼女はそのまま言葉を続ける。



「未那ちゃんと私は、自ら進んで霊峰院を慕っているんです! だいいち無理矢理だなんて、霊峰院様はそんな自分勝手なお方ではありません! さっきのは、むしろ、私たちの為を想って……ッ!!」

「綾子、喋り過ぎよ」

「あっ……、ご、ごめん、未那ちゃん……。私、つい我慢できなくて……!」

「いいわよ。私も綾子と同じ気持ちなんだから。―――ねぇアンタ」

「あ、あぁ……なんだ?」



 未那は鋭い三白眼な瞳で頭二つ分ほど低い位置から俺を睨み付ける。どうしてじーっと見られているんだろうか。二人とも霊峰院に負けず劣らずの美少女なので可愛いのだが睨まれると正直滅茶苦茶怖い。別の意味で心臓がキュンキュンしてしまう。


 そうして未那が紅い制服の内側に手を突っ込むと、ある物を取り出した。



「……コレ、アンタにあげるから、今日あったことは全部見なかったことにして。もし破ったら殺すから。マジで。…………じゃあね」

「あ、待ってよ未那ちゃん……!」

「え、ちょ……!?」



 俺の胸に押し付けるようにして強引に封筒を渡すと、そのまま未那は早歩きで去って行く。


 綾子はどうしたら良いのかと俺と未那さんの顔を交互に見ていたが、ぺこりと俺に一礼すると、同じように俺に封筒を押し付けてたたたっと未那さんの姿を追って行った。そして俺は一つ溜息を吐きながら手の中にある封筒に視線を落とす。


 これが先程霊峰院さんから受け取っていた封筒なのだろう。中身を覗いてみると、案の定五万円が入っていた。俺は思わず顔を顰める。



「ったく、いったいなんなんだよ。……って今何時だ!? やば、バイトに遅れる!!」



 折り畳み携帯の時計を見ると『17:30』。この学園に編入してから最近始めたばかりのバイトなので絶対に遅れるわけにはいかない。


 霊峰院がお金を渡していた本当の理由。そして取り巻きである未那と綾子が自ら進んで霊峰院を慕うそのわけ。正直、今回の出来事が衝撃的で、ちゃんとこれらの情報を整理できない。加えて、俺に対する霊峰院の様子がおかしいことも気になる。


 更なるモヤモヤを抱えて、俺はバイトへと急いで向かったのだった。























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学園の金髪縦ロールお嬢様(美少女)は無愛想だけど、実はツンデレで優しい女の子でした。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

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