第67話 信じられない真実

「はあはあはあ」


 足が限界。肺が痛い。全速力で走り続けてようやく目的地に辿り着いた。学校の最寄り駅から走って20分。


「何でこんなことに」


 目の前にある建物を眺めながらそう言った。俺の目の前にある建物は病院だ。


 約30分程前。家でダラダラ過ごしていると電話がかかってきた。普段あまり音が鳴らない俺のスマホが音を鳴らしたのだ。

 珍しい出来事だったので少し焦った。電話に出ると声だけで誰か分かった。電話の向こう側は中西だ。


 その電話の内容はこうだ。


『今すぐ第三病院に来てください。大変なことに』


 こんな短い言葉を残し中西との会話は終わった。詳しいことを訊いている暇などないと思った俺はすぐさま家を出た。そして今に至るわけだ。


 俺は病院の入り口を通り中に入る。すると入ってすぐ中西の姿があった。


「おい、中西!」


 俺の声に気づいた中西はすぐさま片手をあげ、「こっちです」と言った。


「どうしたんだ!」


「杉山さんが......」


「杉山に何があった」


 俺は固唾を呑んで中西の言葉を待つ。中西の顔を見てみると物凄い汗が溢れ出てきており、唇が震えていた。


 確実にただ事じゃない。俺まで緊張してきた。心臓の鼓動が早くなる。


「説明するよりも見てもらった方が......」


 そう言って中西は足を動かした。目で俺に着いてきてと訴えかけてくる。俺はその指示に従い中西の背中を追った。エレベーターに乗り3階に上る。

 ここまで来て大体予想がつく。


 エレベーターから降りてちょっと歩いたところで中西の足が止まった。


「ここです」


 中西は一つの部屋の前で止まった。扉の横に書いてある名前を指さし俺の方を見る。

 そこには『杉山光輝』と書かれていた。


「何で杉山が入院してんだよ。とりあえず杉山に合わせろ!」


「ダメです!」


 中西が両手をいっぱいに広げ俺の前に立った。


「何でだ!」


「ただ入院しているだけならどれだけよかったか......。けどそうじゃないんです」


「どういうことだ!」


「今の杉山さんは意識不明の重体なんです! だから面会謝絶で」


「なん、だと......」


 俺は中西の言葉を疑った。あの杉山が意識不明だと。あり得ない。


「何でだよ! あいつが意識不明とかあり得ねえ!」


「杉山さんは桐谷さんの母親と一緒にいた男から......」


「一緒にいた男って......」


 中西の言葉を聞いた瞬間、脳内がフラッシュバックした。


 アイスクリーム屋に行ったときにいたあの男のことか。しかし何で杉山とあの男が関わることになったのか。

 考えても意味がない。


「もう理由なんかどうでもいい。久しぶりに血が騒ぐぜ」


 自分でも口角が上がったのが分かった。


「ダメです! 龍星さんとあの男を戦わすことは出来ません!」


「あ? 何でだ? まさか俺が負けるとでも?」


 そうは言ったものの杉山を負かした奴だ。相当な実力者のはず。正直俺が勝てるかは分からん。負ける可能性の方が高いだろう。

 そんなことを考えていると少し離れた場所から声が聞こえてきた。


「師匠!」


 そんな呼び方をする奴は一人しかいない。


「潮田か。何でお前までここに?」


「杉山君は私のせいで......私のせいでこんなことになったんです!」


「落ち着け潮田。お前のせいってどういうことだ。そういえば何があったのか訊いてなかったな。教えろ」


 俺がそう言うと潮田は何があったのか詳しく教えてくれた。潮田の話を聞いていると怒りが爆発しそうになる。

 潮田自身も話をしている途中、目尻に涙が溜まっていた。それほど責任を感じているのだろう。

 しかし話を聞いていると潮田の悪い部分は一つもなかった。


「潮田。お前は何も悪くない。お前も中西も桐谷も誰も悪くない」


 俺はそう言って潮田の頭に優しく手を添える。

 俺の手の感触を感じた瞬間潮田の目尻に溜まった涙が一瞬で溢れ出て来た。


「私が......う、ううぅ」


 中西も潮田の泣いている姿を優しい目で見ていた。


「よし。後は俺に任せろ。あの男を倒すのは俺が引き受ける。それ以外のことは任せていいか?」


「わ、分かりました。私たちが引き受けます。私は師匠を信じます」


 ブルブルと震えた口を一生懸命動かしながら潮田は言葉を発した。


「龍星さん」


「何だ?」


 不安そうな声で中西が俺を呼び止めた。


「私は龍星さんが心配です。もし死んでしまったりしたら私、どうなるか......」


「こんなに心配視されたのは初めてかもな。ありがとな中西。でも心配無用だ。あんなクソ雑魚には負けねえよ」


「私も龍星さんを信じます......」


 そうは言ったものの中西の表情にはまだ不安があった。


 俺はそんな中西の頬に手で触れる。とても冷たい。とても柔らかい。俺と同じ人間とは思えないほど。


「龍星さん......」


「俺は嬉しいぜ。こんなに心配されて」


 俺は満面の笑みを浮かべてそう言った。すると中西も俺と同様に満面の笑みを作る。


「やっぱり龍星さんは私の憧れです。あの日助けてもらった日からずっと私の憧れです」


「へへ。嬉しいぜ」


 俺はそう言って立ち上がる。


 何か今の俺はこいつらのヒーローみたいだ。こいつらの期待を裏切るわけにはいかない。

 

 絶対に叩き潰す。


 待ってろよ杉山。待ってろよみんな。


 

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俺に彼女は必要ない 平翔 @tairakakeru

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