第16話想いが叶った
一緒に寝たがる姉を無理やり部屋に押し込めてソファーで寝た翌日。職場に行く姉を見送ってから、親父の日記を読む。
一人で探すをの諦めて「参考情報としてほしい」とストレートにお願いしたら、簡単に渡してくれたのだ。
最初からそうすればよかったと、後悔してしまうほどあっさり手に入ったので、何とも言えない気持ちになってしまった。
とはいえ、目的の物は手に入ったんだ。気持ちを切り替えるとしよう。
「さーて、何が書いてあるのかな?」
寝床として活躍しているソファーに座ると、ハードカバーの分厚い日記を開く。やや下手な文字が目に入った。一ページ一日という区切りで使っていたようで、文章量はそこまで多くない。
一ページ目から読むか。
ペラ、ペラと紙をめくっていくが、すぐに手が止まった。
――――母さんへの想いがつづられていて恥ずかしい。
今日はどんな髪型だったか、何をしたのかといった母さんの行動をメモしていることもあれば、一回多く話せた、目があった、同じグループになったといったささやかな報告もある。
時代が時代ならストーカーとして処理されそうな案件だけど、当時だったら熱烈な愛情といった感じで前向きに受け止められていたのかな?
恋愛に疎い俺にはわからないことではあるけど、最後は付き合って結婚しているんだから、まぁ、問題はないだろう。
現物が残っているんだし、もしかしたら母さんが見ていた可能性もあるしな。であれば、第三者があーだ、こーだ、文句を言うのは野暮ってものだ。
思考が横道にそれながらもゆっくりと進めていき、だいたい三分の一までくると母さんと付き合えたといった書き込みがあった。
告白したタイミングは高校三年の春。大学受験が本格的に始まる前だったらしい。
最後の言葉はシンプルで「想いが叶った」とだけ書かれていた。その下に続きを書いていたようだけど、消しゴムで消したようだ。数十年経過した今では何が書いてあったのか知ることはできない。
「ふぅ」
気が付けば夕方近い。空腹を忘れて朝から読み続けてしまったようだ。
親父は高田と仲良くならずに、高校卒業前に母さんと付き合っていた。その事実が分かったことは大きい。
告白の方法や日付までわかっているので、ゴールが明確になったのだ。この一冊だけで失敗する確率は大きく減っただろう。
過去と未来の改変も最小限で済みそうだ。
攻略本とまではいかないが、ヒント集を手に入れたような気分になった。
明日は過去に行く日だ。できることはしたつもりで、これ以上の情報は不要だろう。
日記をパンと閉じて立ち上がる。テーブルに置くと、姉が返ってくる前に作り置きされた昼食を食べることにした。残すと機嫌が悪くなりそうだからな。
数時間後には夜ごはんも食べなきゃいけないから、太りそうだな。ヒモも楽ではないということか。
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