第15話姉さんの代わりに頑張らないとね

 タイムマシン、新しく出現した姉、改変された現在……気になることは山のようにあるけど、いっきに全てを把握することは難しい。


 時間をかけて知っていく必要があるだろうし、また過去に行ってしまえば、また何かが変わるだろう。


 それを何度も繰り返していけば、何が正しかったのかなんて俺すらわからなくなる。だから、正しさなんて意味はないし、正史なんてものは存在しない。


 重要なのは母さんが生きている世界に改変することだ。


 その成功率を上げるために必要な人材である姉の機嫌を損ねないように、慎重に付き合っていかなければいけない。取引先のような相手だ。


 だから、勝手に部屋に入った罰として、膝枕をしてもらいながら一緒にテレビを見ているのも仕方がないのだ。


「明日も仕事だけど、あさってはお休みにしたから、一緒に家でゴロゴロする?」


 なんとも魅力的な提案をしてくる姉だが、受け入れるわけにはいかない。


「あさっては五日目だから、過去に行くんでしょ?」

「そうだった!」


 俺がボケに突っ込むと、姉は片眼を閉じて舌を小さく出した。あざとい。実に男受けの良さそうな反応だ。


 歳を考えろよと言いたいところだけど、見た目が若いので違和感はなく、その言葉を出すことにためらってしまった。


「父さんの最後の願いだもんね。私もいっしょに行ければよかったんだけどなぁ」


 そういえば、なんで俺が行っているのか気になった。


 姉がいないときの常識が強かったので、今まで思いもしなかったけど、俺じゃなくて彼女が行ってもいいはずだ。特に俺に対して過保護なのだから、むしろ行かない方が不自然に感じる。


「姉さんは、過去に行けないんだっけ?」


 怪しまれなければいいなと思いつつも、気になったので聞いてしまった。


「性別がねぇ……」


 性別? ……なるほど、そういうことか!


 単純に過去に行くだけではなく、親父の体に憑依するから性別による制限があるのか!!


 詳細を聞くことはできないが、過去に行ける条件の一つとして間違いなくあるだろう。


 普通に使えてたから何も考えなかったけど、ほかにも条件がある可能性は高く、俺だけが全ての条件をクリアしている。だから使える。そう思って行動したほうがよさそうだ。


 そんなことを考えていると姉が俺の髪を撫で始めた。嫌な気持ちはしない。新しい発見をして興奮していた気持ちが静まっていく。全身の力がほどけていくようだ。


「お父さんの若い頃って、どんな感じだったの?」

「うーん。学校ではボッチだったみたい。逆に母さんはアイドルっぽい。クラスの中心人物だったから、どうやって結婚したんだ? って、今でも不思議に思っているよ」

「へー。そうだったんだ。一度でいいから見てみたかったなぁ」


 親の若いころなんて普通は興味ないだろうに。不思議な姉だ。特に親父なんて子供を放置して研究ばかりしていたのだから、嫌悪しててもおかしくないのに。


「姉さんは、二人のことが気になるの?」

「う~ん。勇樹は違うかもだけど、私は家族が好きだから、ね」


 やはり姉にとって家族が全員そろっているのが重要なのだろう。

 それこそタイムマシンを使うことを肯定しているのだ。また一つ、姉の理解が深まった。


「そっか、じゃぁ姉さんの代わりに頑張らないと」

「ふふふ、ありがとう。でも、無理だけはしないでね」


 言われるまでもなく無理をするつもりはないけど、母が生きている世界を見てみたいとは思う。


 その世界の俺は、家族が好きな人間になっててほしい。姉を見ると自然とそう思ってしまったのだった。

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