第14話私の部屋に入ったでしょ?

 部屋の中心にはディスプレイがぶら下がっていた。


 次回の起動まで残り四日と表示されていて、その下にはカレンダーがあった。日付は俺が過去に行った翌日。


 もしかして過去に行く日付を表示しているのか?


 としたら、現在と連動して過去も時間が進んでいる可能性が高い。ゲームのようにセーブポイントから続けるといったことはできそうにないのか。


 今までわかったことを整理しよう。


 タイムマシンを使うと、親父の体に憑依することで過去に戻れる。男性限定だ。現在に戻ると五日間は使用できず、現在に戻って一日過ごすと、過去も一日過ぎる。


 推測も含まれているが、大きくは外れてないだろう。


 このタイムマシンは好きな時に帰れるわけでもないということになる。失敗したからといって、その失敗の前に戻ってなかったことにすることはできないということだ。


 クール期間中は俺ではなく、本来の持ち主である親父が体を操作しているのだろう。もしそうであれば、今日は母さんと初めてランチを一緒に食べる予定だったはず。頼む、上手くやるんだぞ……。


 この想いが時空を超えて届くことはないが、それでも願わずにはいられなかった。


「ブルッ」


 ポケットに入れっぱなしだった携帯電話が震えた。


 取り出してディスプレイを見ると「高杉京香」の文字が表示されている。仕事に出かけたばかりの姉からの着信だ。


 通話ボタンを押して携帯電話を耳につける。


「私の部屋に入ったでしょ?」


 疑うのではなく、確信した声だった。

 家にいないはずなのになぜバレた? 背筋がぞくりと寒くなる。


「今、勇樹が立っている場所は、私の部屋からしか入れないの。しかもそこには、警報装置と監視カメラをつけているから、何をしているのか丸わかりよ」


 そう言われてから天井を見る。するとカメラが四台、天井の四隅にあった。


 この家で最も重要な場所なのだから、考えてみれば当たり前の対応だ。なぜ、バレないと思って入ってしまったのだろう。迂闊な行動をしてしまった自分を恥じる。

 

「勝手には入ってしまってごめんなさい」


 すべてバレているのであれば、ごまかしてしまうのは悪手だろう。素直に謝罪した。


「ううん。家族なんだから別に気にしないよ。ただ、悪いなと思ったのであれば、これからもずっと一緒に暮らしましょうね」


 お、重い……。なんで弟を束縛したがるんだ。過去の俺は何をしていたんだよッ!!!!

 ヤンデレの姉なんて欲しくないッ!!


「そうだね。しばらくは、実家でゆっくりするよ」


 生活費からタイムマシンまでいろいろとお世話になっているので、逃げだすわけにはいかず、俺は肯定することしかできなかった。


「やったっ!」


 喜ぶ姉の声をどこか別の世界の出来事のように感じながら、俺は通話を切ることにした。

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