じわじわと、でも確実に迫る、得体の知れない恐怖

 いつも一緒にいた〝はずの〟三人の、ただただ食い違う現実の物語。
 ホラーです。雰囲気づくりがうまいというか、とにかく巧みに恐怖感を煽ってくれるお話でした。
 なにが起きているのかはわからないものの、でも何かよくないことが起きていることだけは確実にわかる、そんな主人公の視点から追っていく話の筋。親友との対話が続く中、でもその内容がことごとく食い違い、原因もわからぬままひとまず話を合わせ続ける、という状況。不思議で、先を気にさせる話の組み立て方も見事なのですが、でもそれ以上に主人公の内面描写を通じて伝わる、この緊迫感の鮮烈さにやられました。
 語り口の味付けや、倒置の使い所。読点の打ち方に加えて、会話文の絶妙な不自然さなど。主人公の状態が文章から伝わるというか、表面上は必死で話を合わせながら、でも内心の考察に脳のリソースの大半が割かれているこの感じ。読書のリズムそのものが、浅く早い呼吸に誘導されるような感覚。語り口の妙技に絡め取られ、そのまま最後まで持って行かれます。なんとも巧みで、なによりとても好きな味わいの文章でした。