青から橙へ

 なんにでもなれたはずなのに、一緒にはいられなかったぼくらのお話。
 詩的で抽象的な情景の続く、優しくも物悲しい雰囲気の漂う物語です。確定的な描写が少なく、解釈に難渋するところが多い印象を受けますが、おそらくはそれも物語的な演出のうちというか、まさにこれが主人公の見ている世界そのものなのだという認識で読みました。
 あくまでも実在の人間そのものである「私」に対して、境界を隔てたあちら側の存在であるところの「彼女」。果たして人ならざる何者なのか、それとも「私」自身の生み出した幻影か、判然としない面はあるもののしかしそこは実質どうでもよくて、肝心なのは「彼女」があちら側にいること、今は一緒の「ぼくら」であること、そして「ぼくらはなんにでもなれる」ということ。
 こんなにも近くにいるのに、でも決して手の届かない存在。どれだけ思い合っていてもどうにもできない隔絶。それがすべてでそれだけが確実な世界。届かない青に必死で手を伸ばした季節と、その終わりを感じさせてくれる作品でした。