擬態が上手な少女と、その少女と同じになりたい少女の詩的で不思議な話。
始めは青。そして海。次に白で、最後はオレンジ。
文に書かれている色使いが鮮やかかつ、「」付きの言葉で場面のイメージや空気が変わる不思議な話でした。
最後は恐らく行方不明になっていた少女が病院で保護されたというシーンなのでしょうが、多くが語られていないので読み手の想像で如何様にも背景が膨らみます。『擬態が完璧』というのも都会の人に紛れる事が上手いのか、それとも人では無い何かが人に紛れるのが上手い事なのか分かりませんが、それがとてもミステリアス。
ひとりじゃないという事であちら側へは行けなかった少女ですが、もしも両親が少女に無関心だったらどうなっていたんでしょう。擬態が下手なままあちら側へ行く事になるのでしょうか?行けなくて残念な感じがしましたが、それで良かったんだと思います。
後、個人的に一人称が『ぼく』の女の子が好きなのでその部分がとても良かったです。ミステリアスぼくっ娘いいですよね。
なんにでもなれたはずなのに、一緒にはいられなかったぼくらのお話。
詩的で抽象的な情景の続く、優しくも物悲しい雰囲気の漂う物語です。確定的な描写が少なく、解釈に難渋するところが多い印象を受けますが、おそらくはそれも物語的な演出のうちというか、まさにこれが主人公の見ている世界そのものなのだという認識で読みました。
あくまでも実在の人間そのものである「私」に対して、境界を隔てたあちら側の存在であるところの「彼女」。果たして人ならざる何者なのか、それとも「私」自身の生み出した幻影か、判然としない面はあるもののしかしそこは実質どうでもよくて、肝心なのは「彼女」があちら側にいること、今は一緒の「ぼくら」であること、そして「ぼくらはなんにでもなれる」ということ。
こんなにも近くにいるのに、でも決して手の届かない存在。どれだけ思い合っていてもどうにもできない隔絶。それがすべてでそれだけが確実な世界。届かない青に必死で手を伸ばした季節と、その終わりを感じさせてくれる作品でした。