物語を中心から支配するおさるの存在感

 つるんとした美肌のエリートビジネスパーソンが毛深いライバルとバチバチやりあう話、あるいは学生時代の出来事や父のことを回想するお話。
 どういう言葉で表現したものか難しいのですが、こう、すごかったです。内容の濃度というか身に迫り具合というか、この物語を通じて叩きつけられた何か、ビシッと一本通った柱のようなものが。
 猿のお話です。いえ猿は実際には(というか描写としては)端っこの方でちょろちょろしているだけなのですが、でも猿が軸でした。
 お話そのものは結構大胆な進み方をしていくというか、場面の時制がわりと自由自在に動き回るところがあるのですが、それでもほとんど違和感がない(あっても全然気にならない)のは、この『猿』が物語の核を握っているからではないかと思います。なんというか、ちょっとよくわからん例えになってしまうのですが、「はてこの猿はなんなのかしら」という観点から話を見ていくと、自由自在どころか一歩一歩順に進んでいるような感じ。少しずつちゃんと正体を詳かにされていく猿の、その最後のこう、あの、あれ。ぞくっとするような納得感。結びの一文を読み終えた瞬間の、物語性の原液を頭から浴びせられたかのようなあの感覚。最高でした。「うおおー小説読んだー!」って感じです。
 終盤の流れというか、静かながら絶対どうにもならん感じの勢いが好きです。中盤過ぎたあたりからチラチラ見え始めた物語の行く末の、もうそっちに流れていくしかないんだろうな感。雪玉が周囲の雪を巻き込みながら坂道を転げ落ちていく感じ。なによりこの辺の見通しにしっかり確信を与えてくれる、『猿』の存在というか使い方というか。こちらの読むもの感じるものを、完全にコントロールされていたような気がします。
 総じてどこか硬質でつるんとした手触りの、でも平気で胸の中にぐいぐい食い込んでくる作品でした。面白かったです。