現実世界には無い言語体系を作るⅡ
〈言語とは何か〉
この前は音声と文字という二つの言語的要素を説明しましたが、そもそも言語の持つ機能とは何でしょうか。言語とは何なのでしょうか。とても端的に言えば、言語は①意味を伝達する手段で、またその機能内容は②
さて、少し抽象的に考えてみましょう。全ての言語はこの世に存在する、「表すべき無数の事柄」に対応する必要があります。その為に言語は無限に意味を作り出せる機能が無いといけません。それを可能にする特徴が、「③二重分節」というものです。これは能記の特徴で、例えば「森にいる」という文はまず単語に分けることができます。次にその単語は、音素というこれ以上分けられない音に分けることができます。これを図式化するとこうなります。
・森にいる(能記・記号表現)→mori ni iru(意味のある単語)→m o r i n i i r u(音素)
これだけでは何がすごいのかいまいちわからないと思いますが、では言語の分節が単語レベルにしかできなかったらどうなるでしょう? ある言語には十の単語があるとして、その語だけでやり取りするとなると、すぐに言葉が足りなくなるはずです。だからこそ単語は無限に作れるようにならないとダメなのであって、それを解消するのが「音素」という最小の単位なのです。単語は意味がありますが、音素は意味がありません。そもそも最初から意味のある単語は無かったわけで、特定の音の組み合わせを特定の意味として認識して初めて単語ができます。つまり言語が意味を伝達する手段として洗練されて行くにはこの二重分節という特性が無ければなりません。
まとめると、言語を言語たらしめる要素は
①それが意味を伝達する手段・道具・機能であること
②その機能内容が②
③無数の意味を生み出すために、
の三つです。以上を踏まえて次の段階に進みます。
〈言語を送受信する手段〉
言語はただ意味を作り、分類するだけのものではなく、相手に伝達して初めてその機能を最大限に生かすことになります。そこで、言語は送受信できるものでなければなりません。それは送信する場合に電磁波(可視光線)・形状変化・音波などを発する、あるいは表す言語表示器官が必要となりますし、それを受信する場合には視角、聴覚、嗅覚など、言語を受け取る受信感覚器官も必要となります。この送受信器官を持ち合わせ、尚且つ言語を処理できる程度の知能を持っている生命体こそが、言語を使用できるのです。
〈実例〉
例えば上の言語表示器官と受信感覚器官を、それぞれ人間の言語に当てはまると、前者は声帯、あるいは手で、後者が聴覚の耳、そして視覚の目ということです。これをほかのファンタジー生物に当てはまる前に、あり得そうな要素を書きだしてみましょう。
・言語表示器官:臭い、可視光線、電磁波、触覚、味覚、音楽的な旋律
・受信感覚器官:鼻、目、味覚器官、皮膚、電磁波感知器官
などがあげられます。このうち面白そう+ギリギリ実現ができそうなのは音楽的な旋律と可視光線でしょう。例えば前者は、能記が音階や音色、リズムとなり、後者は色、模様、それらの複合パターンなどになると考えられます。それぞれを音楽言語・色覚言語として、形作ってみます。
「音楽言語」:この言語を持つ生物は体に空洞があり、またその上には体毛を弦として張ることができる。その弦を両手で弾くことで音楽音声を自由に書きならすことができ、また聴覚でそれを捉えることで意味を理解する。その言語構造要素は簡素にまとめると音階・リズムの三つによって成り立っており、一つの文章は滑らかな音楽のように聞こえる。意味(音楽)→単語(音階の連続とリズム、和音などによって単語が区別される)→一定の音階(特定の周波数)という二重分節構造を持ち合わせており、無限に単語を作り出すことができる。またその弾き方の強弱や速さで感情も表現することができる。
「色覚言語」:この言語を持つ生物は体に発色器官があり、その器官は太陽光や火の明かりなど、様々な光源を反射する。その仕組みは虹素細胞と呼ばれる細胞層にある極小の結晶粒子の角度を変えることで特定の光の吸収や反射をすることで特定の色を現出するというもの。また視角でそれを捉えることで意味を理解する。言語構造要素は光の色、そこに書かれた模様という二つがあり、意味(色の様々なパターン変化とそこに写された模様)→単語(連続する色の種類や模様によって単語が区別される)→一定の音階(特定の色と模様)とい二重分節構造を持ち合わせており、無限に単語を作り出すことができる。また特定の色と模様の組み合わせによって感情も表現することができる。
こんな感じになりました。とりあえず言語としては十分その機能を持っているので、幻想言語としてあり得るものができたという達成感が強いです(笑)! どちらも芸術的な言語になりますね。小説や漫画よりは、映像作品の方がよりその醍醐味に触れることができそうです。
〈ファンタジー応用〉
上でえがいた二種類の幻想言語は、それだで幻想的な雰囲気を醸し出していますから、後はそれらを司る種族を出現させるだけで充分ファンタジーに適応できるでしょう。ただ、それはあくまで魅力的であるというだけで、まだ言語と送受信器官以外何も決まっていません。
例えば音楽言語種族が本当にバイオリンのような体をしていて体も脆いとしたら、彼らはただ魅力的な言語を持っているというだけで、いざ戦争になれば、容易に人間・エルフ・オーガなどに滅ぼされかねません。ですから長期的にその種族を人間などほかのメジャーな種族に関わらせたいのであれば、彼らにも自衛できる程度の戦闘力を持たせることが必要になります。音楽言語種族は体の空洞がかなり脆そうですが、対して色覚言語種族は、人間と異なる部分が発色器官しかありません。つまり乱暴で少々つまらない構築として、彼らは人間の頭、あるいはお腹にその器官があるだけで、ほぼ人体と形は変わらないとすることもできます。そこらへんは皆さんの想像力とその世界と相談して決めてくださいませ。
ファンタジー言語構築ガイド 凪常サツキ @sa-na-e
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