現実世界には無い言語体系を作るⅠ


 ファンタジー世界。それは最初にも申しましたように極彩色の世界です。またそれと同時に別世界です。そうなるとそもそも現実世界には全く存在しない「言語」ではなく、「言語体系」からして異なることも想像できます。ここでは最後の難度高めの応用として、現実世界にはない言語体系を作ることに着手してみましょう。



 〈言語体系から作る利点と欠点〉

 さて、あなたが言語体系を一から形作っていくとなればかなりの言語オタクなのでしょうが、まずはそもそも言語体系から作るということの利点と欠点を考えられる限り記述してみます。生半可な気持ちで着手すると普通に一つの小説ができるくらいの時間をこれに割いてしまうでしょうから。

・利点:①独自・独特の世界観を表現できる ②言語一つで小説の題材となりうる ③何かあったら「言語体系」が違うからで突破できる 

・欠点:①言語体系を作るというのはかなり多くの知識がないとほぼ不可能 ②生半可な言語体系はかえって小説の妨げになりかねない ③そもそも新しい言語体系を考え出すのが難しい ④新しい言語体系を運用するのも難しい

 まあ一言で言えば、あまり言語学に対して昏いと、新たな言語体系を作ることがまず困難ですし、さらに生半可な言語体系だと、「それなら無くてもいいじゃないか」といったそもそもの存在意義を自答してしまうような小説の欠点になりかねません。

 とはいえ私からいちいちあれやこれやとすべてをお伝えする知識も万全とは言えませんので、まずはこの作品すべてに目を通したうえで、ご自身でも数冊の言語学者の書籍を読んでいくか、ネットで調べてみてください。

 ただやはり、独自の言語体系はあるだけで、あなたのファンタジー世界が一気に個性的になります。だってファンタジー世界の言語一つすら考えない人が大半の中で、さらに全く異なる言語を作るのですから。それを生み出す労力は大いにせよ、生み出したらそれを一つの主題にできる場合もあるので、決して無駄ではないでしょう。ただ兎に角、素晴らしい小説を作るのはもちろん大変なように、その要素となりうる言語体系ヲ作るのもまた恐ろしく大変であることはご理解ください。



 〈言語体系を作るための予備知識〉

 では、一体新たな言語体系とはどんなものか、あるいは通常の言語体系とは、ということをお話しして、ひとまず区切りを入れましょう。

 現在人間が使用している言語の内、最も普遍的な要素は「音声言語」です。声帯を震わせることで発声し、その音波を口内の形や舌の位置によって母音を生み出し、さらにその母音を歯や唇、舌などで妨げることで子音を発します。これによってさまざまな音素を自在に発声し、それを組み合わせることで意味を作り、さらに意味をつなげることで文章を生成します。これが音声言語です。前にも言いましたが、文字を持たない言語はかなり多い一方で、音声言語を持たない言語は、少なくとも自然言語の中ではまずありません。つまり私たちにとって通常の言語体系というのは、音声言語であるといえます。

 そして音声言語には劣りますが、しかし現在においては同じくらい重要であるのが文字言語です。一瞬で消え去る音声言語に対して、文字言語はその記録媒体が残る限りずっと残るという点で、記録に向いています。頭脳の外部に情報の記録ができるというのはとても目覚ましい発展で、文字言語が発明されたから人類はここまで来たといっても過言ではないでしょう。ただ文字言語はあくまで音声言語から出てきた派生であり、意思疎通のためのツールである言葉を示すためのツールです。だからどこまで言っても文字と音声は交わることなく、そして文字は副産物なので、こちらは主体となることは、通常の人間にとってはありえないことです。

 

 そこから考えると、どうやら新たな言語体系はまず「①普遍的な要素が音声ではない言語」というところから考えてみるのが最も読者にわかりやすく、そして新鮮であるということになります。長くなったので、次回はここから始めます。

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