魔法言語を作る


 〈魔法言語とは〉

 あなたのファンタジー世界において、そもそも「魔法とは何かという設定」がきちんとしているなら、それに付随した魔法を示す言葉、魔法言語というものを作ってみると、ともすれば設定が破綻しがちな魔法に対して一定の基準を設けることができるので、よりその活用がしやすくなります。これによってあなたも読者もより理解がしやすくなります。

 例えば、魔法を発動するためにしなければならない行為は、それぞれの世界によって違うことでしょう。あるいはそもそも魔法の仕組みが「神によるもの」なのか

「自然界と接続するもの」なのかによっても、様々な魔法言語が考えられます。ひとまず考えられる魔法の仕組み、設定を書き出してみましょう。


・魔法の仕組み:

①この世界には超自然的で絶対的存在である神がいる。その神に対して魔法言語で願いを投げかけることにより、魔法が発動する。

②この世界の自然体系を司るのは不可視で、空気中に充満しているとされる精霊たちである。彼らに対して魔法言語で願いを投げかけることにより、魔法が発動する。

③この世界の自然体系を司るのは不可視で、空気中に充満しているとされる魔導物質エーテルである。これは特定の連続した音波に対してそれに応じた効果を発揮する性質があり、その性質を利用することにより、魔法が発動する。

・法を発動するための行為:

④発動したい魔法に対応する魔法言語を(杖などの媒体を介しながら)口に出す。

⑤発動したい魔法に対応する魔法言語を文字言語で表現する

⑥発動したい魔法に対応する魔法言語を手話で表現する


 以上、仕組みと発動するための行為をそれぞれ三つずつ考えてみました。例えばこれらの内互いにあり得そうな組み合わせというのは、「①と④」、「②と④、⑤(⑥)」、「③と④」などでしょうね。組み合わさらないというのは③と⑥のように、全く意志を持たない唯の物質に対して、特定の音波などの刺激を出さない手話は対応しないはずです。また、神というのは絶対的で強大な存在ですが、ではなぜ⑥が相容れないかといえば、それはもう④で、音声言語が伝わるためです。音声で伝わるのにわざわざ文字にしても伝わるとしても、じゃあ文字で伝えましょうという人は現実的に考えていないでしょうし、この方法が下位互換となってしまう恐れがあるためです。②に対して⑥をかっこで囲ったのも、双方が存在していては設定が無駄になってしまうかもしれないという考えからです。

 こうした設定を踏まえて、ようやく魔法言語を作ってみましょう。



 〈魔法言語創作〉

 ここでは魔法の仕組みと行為に応じて、それぞれに対する魔法言語はどのような特徴を持っていそうか考えてきます。

①「神の魔法言語」神に対しては思考か音声が伝わる。その為、思考自体を人間などの自然言語とは区別をしなければならない為、言語体系や文法そのものをがらりと変えてしまう必要がある。例えばテッド・チャン『あなたの人生の物語』に出てくるヘプタポッドBなるエイリアン文字言語は、「同時的認識様式」を基礎とした言語であるため、あらゆる物事を重層的に実感し目的を知覚するため、この思考回路になれば未来予知に似た能力を得る。だからこそ習得は困難ではあるが、神の魔法言語を習得することは神に近づくことと等しくなる。

②「対精霊魔法言語」神とは異なり、精霊は常にその詠唱者の近くに存在するため、思考や音声のみならず、手話などの表示言語も伝わる。神との対比もかねて、表示言語が最も伝わりやすいとしても良い。その際、精霊たちにきちんと伝わるよう、対精霊魔法言語はとても分かりやすいものでなければならない。

③「法則魔法言語」魔導物質エーテルを媒体とするので、上記二つとは異なり物理学的な考えでも十分納得ができる設定となる。神や精霊はあくまで自由意志のもとでその詠唱者の魔法を発動するかどうか、またその強弱などを決められるだろうが、エーテルは物体であり、自然法則であり、正しい詠唱があれば、寸分の違いもなく何度も同じ威力・効果を期待できる。その為習得が二つに比べればとても容易ではある。ただその代わり、言語に関しては厳密性が求められるため、論理的な文法が多くなる。

④「表音魔法言語」口に出すということは、当然それは人間にとって発声可能な言語である必要がある。ただ、一般人に容易に使われても困るため、習得が困難な発音が多いと魔法の専門性が高まる。また発声がほぼ不可能な音を入れ込むことで、なぜかそれを可能にしたものが伝説の魔法使いになることができる。例えばこの表音魔法言語がドラゴン族発祥の物だとしたら、ドラゴンが第一の使い手であり、その真似がうまいものが魔法もうまくなるという具合になる。

⑤「筆記魔法言語」文字言語に書くだけであれば、素人でも目で移すことで容易に詠唱できてしまう。こういったことを防ぐため、まず筆記魔法言語は複数の文字が何重にも重なりあい、互いが互いの意味を補填し合うという、とても複雑な筆記体系が必要になるし、また一般人がその効果を偶然享受することが無いよう、筆記具やインクを特殊なものにするなどの工夫が求められる。

⑥「手話魔法言語」手話も文字言語と同じように、人によって不可能な表現というのはほぼないだろうし、真似すればできてしまう。その為手話魔法言語はまず第一に動作が高速であること、そしてその手話表現が、訓練をしないと難しい指の形であることが求められる。

 

 前々から言っていることですが、魔法は誰にでも使われたらその世界がハチャメチャになりますし、物語の収集がつかなくなるでしょう。だからこそそれを司る魔法言語は、上のように一般人が容易に習得できないような設定をしておくべきです。そうすることで世界の平和や均衡を保つのがだいぶ楽になりますし、また魔法の神聖さや神秘性が増します。さらに言えば、魔法言語をきちんと構築していけば、いずれそれを題材にした小説すらかけるようになることでしょう。これはSFになってしまいますが、さっき出てきたテッド・チャンや『紙の動物園』で知られるケン・リュウなどもほぼ未知の言語を主題にした作品を書いています。そこに魔法というファンタジー要素が合わされば、とても壮大な冒険小説から非常に理論的な学術的作品まで、幅広い創作が可能となるでしょう。 

 そして最初にも言いましたが、魔法言語は魔法という捉えどころのない体系に一つの枠組み・規則を設けます。これによって例えば「その世界の魔法はどこまで強力な効果をもたらすのか」、「なんでもありならとっくの昔に世界は滅んでいるのではないか」「なぜ魔法使い各々能力に差があるのか」などの疑問が快刀乱麻で解消されて行きますし、設定があやふやな場合に魔法が暴走してしまう、ということも防げます。以上のことから、魔法を制御するためにも、そして世界の設定をより豊かにするためにも、魔法言語は一つ作っておいて損はないだろうと考えています。

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