第7話

「どうぞかけてください」


 客間に誘われるまま、上がった。

 畳に座布団を出されたのだが、クマは多分骨格的に正座とか無理。失礼して、足を伸ばさせてもらった。


「粗茶ですが、どうぞ」


 茶色の渋い湯飲みを出された。


 手に取って、湯気が香る薄緑の茶湯を見つめるが、そこから先が続かない。


 クマって、お茶飲めるもの?


 じっと、白石さんが見つめてくる。心配そうに。あるいは、ちょっと泣きそうな表情で。


「初めてお茶入れてみたんだけど、やっぱり口に合わないかな?」


「ご、ごめん! 僕もこんな本格的なお茶、初めて飲むから勝手がわかんなくてね! いただきます!」


 すすった。

 あふれた。

 むせた。


「ぶわっふ」


 吹いた茶がだばだばと体に飛び散る。


「う熱っち!」


 熱さで畳の上をのたうち回る。

 畳の目に毛が引っかかってぶちぶち抜ける。


「あたたたた!」


 ぶっ!


 おなら出た。


 広いお座敷に僕の放屁音が響き渡る。



 『バカなお兄ちゃん。すする、というのは頬がある人間特有の所作なんだよ』とほくそ笑むミーちゃんの姿が脳裏をよぎる。もっと早くよぎってほしかった。


 ぷっ


 と、ダメ押しの屁が聞こえた――と思ったが、僕ではない。


 恐る恐る顔を見上げると、口元を押さえた白石さんが小刻みに肩を震わせている。


「ご、ごめんな――うふ――だって――ふふっ」


 笑ってる。

 こらえきれずに吹きだしている。

 涙まで流してる。


「あ、はは、ははは」


 自然と、僕も笑った。


「ふふ、あははは――はっはっは!」


 白石さんの笑い声も、僕につられてか大きくなる。


 僕の失態で笑ってくれてる。


 それだけで、僕も心の底から笑い声が出せた。

 ついでにもう一発おならが出た。

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ケダモノダモノ 京路 @miyakomiti

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