第6話
店の外に出た2人は早速目的地に向かう。マスターの情報によると、街からでて西の方角にある[枯れ木の街道]と呼ばれる場所に討伐依頼のモンスターが出没するとのことだった。
今日の学校はいつもの時間より早く終わったため、まだ空は明るい。それでも、アズサとの図書室の会話で時間を使い、依頼所に来るまでも服屋に寄り道をした。目的地に着くころには夕方ぐらいの時間帯になってもおかしくは無かった。できれば夜までに戦闘は終わらせたいとシンは思った。それは薄暗い夜の中での戦闘は危険度がさらに高くなってしまうからだ。
「わかってると思うが、前衛は俺だ。お前は後ろから魔法で支援。極力戦闘に参加しないようにしろ。最悪木の陰にでも隠れてろ」
いつの間にか変装を解いていたアズサにシンは忠告する。
「わかってるとは思うけど、そんなあなたの助言を私が聞くと思っているのかしら」
「あのなー、お前本当に死にたいのか」
「言ったはずよ。私にはまだやることがあると。死のうなんて気はさらさら無いわ」
「なら俺の言うこと聞いとけ。出来る限りお前のこと守ってやるから」
「死ぬ気はないけれど、あなたに守られる気もないわ」
「、、、あーそうかよ。だったら俺もいつも通りやらせてもらう」
アズサの言葉にシンは少しむかっ腹を立てた。
「ええ。その方がお互いにやり易くていいわ」
その後彼らは終始無言のまま、目的地に向かっていった。
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目的地に着くとまだ日はそれほど落ちてはいなかった。周囲の視界は明るい。ただし、街道を外れると、そこは枯れ木がいくつも生えていて周囲の状況が確認しずらかった。一つ一つの枯れ木の間にはそこそこのスペースがあるが、やはり奥まで見通すことは難しかった。
「この辺りにいるっていう話しだったが、取り敢えずこの街道を歩いていくしかないか」
「そうね」
シンたちその街道を歩きだした。シンたちの足音以外物音は全くせず、驚くほど静かな街道だった。
マウントゴリラ以外の生き物一匹さえ見つけられないまま、シンたちは街道の丁度半分くらいまで歩いた。
「きゃー!」
瞬間、シンたちが歩いている街道右側の枯れ木の中から女性の悲鳴が聞こえた。甲高いその声はシンたちをすぐさま臨戦態勢にさせた。
「アズサ、お前はここで待ってろ」
シンがその悲鳴を聞きすぐにそう言った瞬間、アズサは悲鳴の聞こえた方に駆け出していた。
「あのやろー本当に俺の話を聞きやがらねー」
アズサに続きシンも続く。
悲鳴が聞こえた場所にシンとアズサの2人が着くと1人の幼い少女が横たわっていた。周りにはその少女の荷物と、思われる品物が散乱していた。
「大丈夫か」
シンが少女に声をかける。
「うっ」
倒れていた少女はゆっくりと目を開ける。
「何があった」
「モンスターに襲われて、、」
「モンスター! どんなやつだ?」
「人間みたいだったけどすごく大きかった。それにネズミ色っぽい毛がたくさん体に、、、」
「マウントゴリラか!」
「はっ! そういえばお父さんは?」
急に何かを思い出したように少女は目を見開く。
「お父さん?」
「私と一緒にモンスターに襲われて逃げていたんです! このあたりでお父さんを見ませんでしたか?」
「悪いけど見てないわ」
「きっとモンスターに追われているんです。助けに行かなきゃ」
「あなたのような何の実力もない子供が助けに行ったって何の意味にもならないわ」
いたいけなその少女にアズサは氷のように言う。
「それでも行かなくちゃ、行かなくちゃいけないんです」
少女はミナセの言葉に耳を貸さなかった。少女は辺りに散らばっていた荷物をまとめ始めた。
そんな姿を見てアズサは再度忠告する。
「あなたが行ったところで無意味だと言っているの」
相変わらず少女はアズサの言葉に耳を貸さなかった。少女は自分の荷物をまとめ終えると、すぐさま駆け出そうとした。瞬間少女のからだを取り巻くように氷が降り注いだ。
「!!!」
少女は驚いた。瞬時にその氷塊が現れたことに、そして、自分の身体が全く動けなくなったことに。
「なんですかこれ、あなたがやったんですか」
体を精一杯捻りなんとかその氷塊から抜け出そうとしてもがく。
「さっきから何度も言っているでしょう。あなたが行ったところで何の意味もないわ。ただの犬死によ」
アズサは相変わらず冷静に言った。
「、、、だから、だからなんですか!それでも、それでも行かなくちゃいけないんです。私たちはやっと、やっと、オウトの街で商売を始められるくらいまで成長したんです、、、あと、あとほんの少しで私たちの夢が叶うんです、、、」
少女は涙を流した。理由は特段言っていた訳ではないが、シンにはだいたいの想像がついた。この世界では基本的に魔法が使えない者は搾取される。この少女もそしておそらくこの少女の父親もきっとそうだったのだろう。それでもなお諦めずに彼らは必死に生きてきた。そうして掴みかけた逆転の一手が商人という道であり、夢だったのだ。
シンはそんな少女の今までを一瞬で想像できた。確信などは無かった。それでもきっとそうに違いないという不確かな確信がシンの心の中に湧き起こった。シンは少女の体にとりまくアズサの氷を壊そうと拳に力を入れた。しかし、シンが行動するそれより早くアズサは言った。
「、、、だから、私たちに任せなさいと言ってるのよ」
その言葉を聞いた瞬間、少女は目を見開いた。アズサのその言葉は少女の心に深く突き刺さった。シンも同様にそのアズサの発言に目を見開いた。
「さっさと行くわよツクヨミ君」
「当然!」
シンとアズサは再び枯れ木の中を駆け出した。
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「どうやってマウントゴリラを見つける」
木々の間を走りながらシンは尋ねる。
「おそらく、近くには居るはず。2人で手分けして探しましょう」
「お前!それは流石に危険過ぎる。もし、お前が見つけたらどうすんだ」
「別に問題は無いわ。私が倒せばいいだけの話でしょう」
「ふざけんな!」
シンは怒った。
「別に私が倒したとしても報酬は全部あなたにあげるわ。50万ベルぐらい私にとってはどうってことないから」
「んなこと言ってんじゃねーよ。お前が危険だって言ってんだよ。わりぃけど、今回ばかりはお前の要望を聞くことはできねー。2人で探す。もしお前が拒否しても俺はお前に着いていく、勝手にな」
アズサのその提案をシンは認めなかった。
「、、、あの子の願いはどうするの」
アズサは言う。
「願い?」
「さっきの子が言っていたでしょう。オウトの街で商売をすると」
「、、、だけどな」
「私たち2人で手分けせずに捜索すれば安全なのかもしれない。けれど、あの子の父親がモンスターに殺されてしまうかもしれない。私たち2人で別々に探せば、あの子の父親を救える可能性は格段に上がるわ。そんなことあなたにだってわかっているでしょう」
「そんなことわかってる。けど、その分俺らの危険性が増す。第一俺ら別々に行動したからって確実にあいつの親父を助けられるわけじゃない」
「違うわ。私が言っているのはそんな事じゃない。私が言いたいのはあの子の願いについて。どうすればあの子の願いを叶えるために1番いい方法なのかについてよ。あなただって本当はわかっているはず」
アズサの言葉は確実にシンの心の内を見透かしていた。アズサの言う通り、シンにはもうわかっていた。一番最善な方法がなんなのかを。
シンは神妙な面持ちでアズサを見つめた。
「、、、いいか。お前が見つけたらすぐにお前の魔法で氷を空に打ち上げろ。そんで、決して無理はするな」
「言ったでしょう、私が見つけたら私が倒すと」
「お前な、いい加減にーーー」
「けれど万が一、いえ、億が一にもない事だけど、もし私のみの力で倒せないと判断したら、その時はあなたを呼ぶからさっさと私のもとにかけつけなさい」
「、、、なんで上から目線なんだよ」
「決まっているでしょう。私の方があなたより上だからよ」
「はっ、そうかよ!」
そう言って2人は別々の道を駆け抜けた。
シン ルン @rune01
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