第5話

学校をでた2人は依頼所に向かう途中アズサは急に立ち止まり言った。


「待ちなさい」


「どうした?」


「私はミナセの人間よ。依頼所の人にバレたら大ごとになるわ」


「じゃあどうする?」


「決まっているでしょう。変装するのよ」


そう言ってアズサは近くにある服屋を指差した。


「はいはい」


シンは少しめんどうそうな返事をしアズサと一緒に服屋の中に入る。

中には数人の客と店員がいたが、アズサが入った瞬間彼らの態度は一変した。仰々しく敬ったような目つきでアズサを見て、おずおずとかしこまった。

さすがは三大貴族の1人だとシンは思った。

シンもアズサの買い物ついでに、服屋の中を見て回った。衣類とは別に色とりどりのの装飾品なども並んでいた。

シンは自分にとってどんな服が似合うなどというファッションセンスなどは持ち合わせていなかったから、色鮮やかな服が並んでいるのを見ることを楽しんでも、お金を払ってまで買おうという気にはなれなかった。


「できたわ」


シンの後ろからくぐもった声が聞こえた。

振り返るとそこには、ニット帽にサングラスとマスクをつけたアズサが立っていた。


「なにやってんだ、お前」


「変装よ」 


マスクのせいでアズサの声は若干くぐもっていた。


「どごぞの強盗団だよ」


「何を言っているのかしら」


「お前の方こそ何をやっているのかしらだ。なんでこんなに色とりどりの装飾品があるなかで身に付けたものがそれなんだよ!」


「気づかれないようにするにはコレが一番いいのよ」


「あのなー、お前顔は綺麗なんだから、もっとマシな変装しろよ。髪を束ねたり、サングラスじゃなくて普通の眼鏡とかでもいいだろう」


そう言ってシンは近くにあった少しシルバーの色がついた四角のフレーム眼鏡を取った。少し知的にそしてどことなくストイックな感じがアズサに似合うとシンは思った。


「お前さ、これなんか似合うんじゃないか」


そう言ってシンはアズサがつけているサングラスを取る。

瞬間2人の目と目が合う。アズサは驚いたようにシンの顔を見つめ続けていた。

シンもアズサのその表情に驚きメガネをつけずに見つめ返し続けてしまっていた。


「な、なんでそんなに驚いてんだよ」


彼女のその綺麗な瞳に見つめられ続けてドキドキと緊張してしまったシンは少し声が上ずったように言う。


「あなたが、急に、取るから、、でしょう」


「わ、悪い」


「別にあなたの好みなんて聞いていないわ。だから、このままで行くわ」


アズサはそう言って、シンが持っているサングラスを取り返し、店員の前に持って行った。

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店を出た2人は今度こそ依頼所に向かった。ニット帽・サングラス・マスク・の三点セットを装備した人間が隣を一緒に歩いていたこもあってか、途中周りから奇異の目で見られることもありながらも、なんとか依頼所まで到着した。


「中は酒場になってる。依頼を受ける気がないやつも飲みたいってだけで中には入れる。公共の場ってやつだな」


「へー、そう」


ミナセは殆ど興味なさそうに頷く。


「入るぞ」


シンが扉を開けると、そこはどんちゃん騒ぎ真っ只中だった。

肉を喰らい酒を飲み豪快に話す。そこにいる連中のほとんどがそんな人間たちだった。酒や料理の臭いとともに、なにかこう男たち特有のむさ苦しい男臭さがあった。もちろん、中には男性のみではなく女性もいたが、彼女らの匂いは全て先の臭いに飲み込まれていた。


「これがここの日常だ。別に今日が特別ってわけでもない」


「とてもうるさいわ。もう少し優雅に食事ができないものかしら」


「ここにいる連中に優雅さを求めるなんて100年費やしても難しいと思うぞ」


シンはそう言って目の前にあるカウンターに向かう。マスク・ニット帽・サングラス姿のいかにも怪しそうな人間が入ってきても、その酒場の中にいた人たちはちらとアズサを一目みるだけだった。


「よお、シンじゃねーか」


カウンターの中に立っていた男がシンに向かって声をかける。


「よお、マスター。元気にしてたか?」


「まー、ボチボチだな。今日はなんのようだ。依頼か?飯か?酒か?」


「飯と酒は食わねーし飲まねーって毎回言ってるだろ」


「はっはっは。ったく、ちっとは食ったりしてけよ。んでどんな依頼が御所望だ」


「楽で報酬が高額なやつな」


したり顔でシンはそう言った。


「俺もいつも言ってるが、そんな依頼があったらもうとっくに他のやつにとられてるよ」


「では、逆にどんな依頼があるのかしら」


隣にいたアズサがマスターに声をかける。


「えっとお嬢さん、、、だよな?その前にちょっと聞きてーんだが、シンの仲間なのか」


そのミナセの格好に多少驚きつつマスターは応じる。


「仲間なんていう概念が当てはまるかどうかわからないけれど、とりあえずそんなところかしら」


「あっはは、そうなんだ」


マスターは大いに苦笑いをした。


「おいシン! 何者なんだアイツ」


マスターは小さい声でシンに耳打ちするように言った。


「見てわかるだろ。強盗団の一員だ」


「えーーーやっぱそうなの!うちの店狙いに来たの!格好がすげーあからさますぎるから逆にビビっちゃたよ!」


マスターの顔はえらくひきつった。


「あなたたち、聞こえているのだけれど」


「まあ、冗談はさておき素性は訳あって話せない。とりあえず俺の仲間ってことにしてくれ。一緒に依頼をこなす」


「ふーん、訳ありってやつか。まあ、ここに来るやつの詮索はしないっていう暗黙のルールがあるからな。それは別にいいが、大丈夫か。ここに来る依頼ってのは基本的にモンスターの討伐ばかりだぜ」


チラッと一目ミナセの方に目配せしてマスターが言う。


「知ってるよ。一応大丈夫だ。けど、念のため今回の依頼は報酬の額より安全性を取りたい。こいつを見守りながら戦わなくちゃならないからな」


「あら、もしかして私が足手まといと言いたいのかしら」


「言いたいんじゃなくて、そう言ってんだよ。負けず嫌いもいいが、今回は本当の実戦だ。ヘタ打って----」


「マスター、今ある依頼の中で1番高額な報酬のものはどれかしら?」


「えーっと、お嬢さん本気で言ってんのか」


マスターは額に汗を流した。


「ええ、もちろん」


「お嬢さん、そいつはやめといた方がーーーー」


「は・や・く・だ・し・な・さ・い」


「、、、はい」


マスターはアズサのその迫力に簡単に押し負け一つの張り紙を見せた。


「おい、人の話を聞けよ。っていうか、1番高額の報酬?何言ってんだお前!それがどんな意味かわかってんのか!

ってか、あんたも簡単に頷いてんじゃねーよ!」


「だって怖かったんだもん」


「『怖かったんだもん』じゃねーよ! マスクにサングラスかけてんだろ!そんなやつに威圧されてんじゃねーよ!」


「ええ、わかっているわ。1番に危険ということでしょう」


アズサは言う。


「だったら尚更だ。そんなもの俺は受けない」


「あら、自分の実力の無さに腰が引けたのかしら。でもいいわ、あなたが引き受けなくても私だけで行くわ」


「なっ!本気で言ってのんかよ!」


「ええ、本気よ」


彼女のその言葉にシンは怯んだ。彼女のその言葉に嘘偽りわなく、本気で一人でも依頼をこなしそうだった。


「、、、依頼内容は?」


「本当にいいのかシン?」


マスターが心配そうに声をかける。


「仕方ねーだろ。このままほっとく訳にもいかないし」


本心を言うならシンにとってはあまりやりたくの無い依頼だった。アズサの実力は認めるが、まだ会って間もない人間と初めて一緒にやる依頼が最高額の報酬、つまり今ある中で最も危険な依頼というのは多少気が引けた。


「なんか険悪なムードでやりづらいが、まず報酬は50万ベル」


「50万!一般的な依頼の額だとだいたい10万~20万ベルぐらいだろ。普段の倍以上じゃねーか」


「50万!随分と安い値段ね。私の家にある宝石一つの方がよっぽど高いわ」


シンとミナセは同時に喋り同時に驚いた。


「な、なんか意見が別れてはいるが、とりあえずの報酬額はそうだ。けどな討伐依頼モンスターがここらじゃあんまりお目にかかれない凶暴なやつでな。マウントゴリラって知ってるか?」


「マウントゴリラ?」


「ああ。この辺に生息地は無いはずなんだが、なぜか最近マウントゴリラの目撃情報が何件も上がっていて、実際に調査をしたところ、実際に一体この街の近くにいるとのことがわかった」


「そいつが今回の討伐依頼」


「ああ」


「特徴は?」


「人型のようだが、通常の人間よりも2倍ぐらいの体格で、体の表面は灰色の剛毛で覆われている」


「場所は?」


「『枯れ木の街道』って知ってるか?この街から西の方角にある街道で、そこで育つ木々にはなぜか葉っぱが実らないんで、そう呼ばれてる」


「その『枯れ木の街道』ってとこに行けばいいのか?」


「ああ、その辺りがやつの出没地らしい」


「なるほど、わかった。ありがとなマスター」


「シン、わかってると思うが、報酬が高額ってことはそれほど危険が伴うってことだ。くれぐれも無茶すんなよ」


「ああ、わかってるよ」


シンはそう言ってその依頼を受けた。


「あら結局受けるのかしら。さっきまで腰が抜けていた割にはずいぶん立ち直りが早いのね」


アズサが悪態をつくように言った。


「ああそうだな。近くにガキみたいな駄々っ子がいたせいで、そいつのお守りをやんないといけなくなったからな」


シンも負けじと反抗する。


「誰のことかよくわからないけど、それじゃ行きましょうか、腰抜け魔道士さん」


「あーそうだな。実戦経験ゼロの負けず嫌いやろー」


そう言って彼らは店を後にした。

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